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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤の裁決(2)

 萩は何も言わない。まるで、手負いの獣が己の誇りを保つために死を覚悟しているようであった。彼は影の国の術士だ。悠真は影の国のことを知らない。しかし、柴の言葉から、松らが心を捨てたことから、影の国の実態が垣間見れる。


 悠真の中の影の国の印象は、とても恐ろしいものだ。己の存在価値を完全に消し、道具として命も心も使う。赤丸が言ったように、影の国の術士は赤影以上に自己という人格を捨てている。偶然にも悠真は現在生きている赤影を全員知っている。赤丸を筆頭に、赤山、赤星、赤菊の四人だ。彼らは裏の世界の存在として、表に姿を見せることをせず、紅のために命を投げ出すことも、命を奪うことも厭わないだろう。けれども、彼らには自己がある。己という確かなる自己価値がある。そのような自己価値が、影の国の術士にあるのだろうか。依頼のために命を奪い、依頼を果たすためなら、その命さえ容易く捨てる。松らを見ていて、それを思った。

 ならば、杉を野江に託した萩は、影の国の術士として異質な存在だ。命令を絶対としている影の国の術士が、どうやって杉を野江に託したというのだろうか。萩の思考回路が分からない。萩は何を基準として動いているのだろうか。命令のほかに、萩を動かしているものは何なのだろうか。明らかなのは、命令をしていたのが、赤丸が斬り捨てた老人だということだ。


「雪の国に、その責はあります」


言葉を放ったのはアグノだった。


「雪の国に?」


白の色神がアグノに尋ねた。アグノは白の色神に近づき、彼女を抱き上げた。黒の色神クロウもそうだが、異国の人は体が大きい。小柄とはいえ、慣れた仕草で易々とアグノは白の色神を抱き上げた。


「これはソルトも知らないことです。医学院で行われていた実験研究です。実験では、実験体とされた全員が死亡しました。それでも、多額の報酬と引き換えに、異国の人間に手術を施した記録があります。手術を施されたのは、影の国の民十余名。その中の一人が、萩でしょう。そして、杉も含まれているはずです」


アグノは何かを知っている。影の国と雪の国に関係があるとは思えなかった。アグノの話が、萩に生じた現実を明らかにしていく。


「雪の国は人間の体を研究していました。人が持つ一色を支配し、心を支配し、脳を支配しようと試みました。それは、戦争を主とする国では、強い兵士を作り出すために必要な技術なのです。――そして、術士でない者を術士にする研究も行われていました。幸い、人工的に術士を作り出すことには失敗したようですが、人の心を支配する手術も、色を強める薬も開発されました。副作用が強く、手術では大半が死亡し、薬では廃人となる者が多いのが現状ですが、それでも人の命を軽んじる国によっては必要な技術です」


悠真は雪の国のことを知らない。何も知らない。

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