赤に代わる赤(4)
深みのある赤が広がっていく。
秋幸の周囲から渦巻く赤が消えていく。
「秋幸」
冬彦が口にした。いったい、何が起こったのか理解できない。いや、生じていることは理解できる。秋幸が萩の赤色を収束させているのだ。理解できないのは、なぜ秋幸にできるのか、ということだ。答えを求めて、悠真は赤の姿を探したが、赤はどこにもいない。
深い赤色が広がり、萩の放つ赤色を押さえていく。
秋幸は足を進める。
赤い色に怖気ることなく、収束させていく。
ゆっくりと足を進める。
それはまるで、紅のようであった。
鮮烈な赤が消える。そして深い赤色に変わっていく。
あまり気持ちの良いものではない。紅が消えて、秋幸に代わるような。そんな気持ち。悠真は変な気持に襲われた。それは不安のようで、不安でない。事実を直視しているのに、自らの都合の良い方へと変えていくような気持ち。
悠真の目の前で何かが起こっている。それは紛れもない事実なのだ。深みを増す秋幸の色。それは平凡という言葉では表せない。
秋幸は平凡なんかじゃない。秋幸は普通なんかじゃない。
(分からないんだ)
紅の声が悠真の脳裏に響いた。紅の言葉の意味が、今の悠真なら分かる。
(分からないんだ)
秋幸のことが嫌いなわけではない。憎いわけでもない。恐れているわけでもない。ただ、秋幸のことが分からないのだ。紅が秋幸を戦場から遠ざけた理由も分かる。そして、秋幸のことを分からないと言った理由も分かる。
(分からないんだ)
それは事実。クロウにも、紅にも、柴にも、赤丸にも分からない。赤でさえ、口を閉ざしてしまっている。
悠真は秋幸を見つめた。秋幸は一歩、また一歩と足を進めている。秋幸が足を進めている。萩の色を収束させていく。秋幸が色を収束させるのに合わせて、柴と野江が力を弱めていく。力の均衡が崩れないように、それは、歴代最強の陽緋野江と、先の陽緋であり一色を見る柴だからこそできることだ。
秋幸は萩の元へたどり着くと、萩の持つ紅の石に触れ、その石を奪い取った。萩が抵抗するまもなく、
秋幸の持つ黄の石が輝き、萩は捕えられた。