赤に代わる赤(3)
赤丸が色を収束させることができない。
悠真もできない。
紅は倒れた。
ならば、戦いを止めない萩は、死ぬしかない。それでも、死なせたくないと思う人たちが、必死に時をつないでいる。
「冬彦、同時にできるか?ちょっと代わってくれ」
口にしたのは秋幸だ。秋幸は紅の石を使うのをやめた。
「ちょっと、ちょっと待て秋幸」
戸惑う冬彦を秋幸は無視していた。
「冬彦なら、できるだろ」
弟に託す無理難題。悠真は秋幸の一色が変じるのを見た。
秋幸は、普通で平凡だ。なのに、時折奥深さを見せる。その奥深さに悠真は魅了されるのだ。一緒に紅城を散策したり、一緒に将棋をしたり、秋幸はいつも悠真と一緒にいてくれた。
下村登一の乱の時、秋幸は他人の紅の石を使えないことを知りながら、紅の石を使った。自らの命も、自らの価値も、秋幸は知っている。その、平凡の先の奥深さが、その平凡さが悠真を引き付けていた。思えば、自らの故郷を破壊した秋幸を信頼したいと、仲間になろうと思ったのは、秋幸が秋幸だったからだ。秋幸の雰囲気は特殊だ。
「大丈夫。紅が色を収束させるのも、赤丸が色を収束させるのも、俺は見ていたから」
秋幸が微笑んだ。その微笑みを悠真は知っている。時に秋幸は微笑む。悠真には分からない秋幸の一部だ。秋幸の一色がさらに変わる。悠真はそれを見ていた。悠真の不確かな目でも見えるのだ。一色を見ることに長けたクロウや赤丸、柴にはどのように見えているのあろうか。それは、彼らの反応を見ていれば明らかだ。赤丸もクロウも目を見開いて口をあけている。柴は離れているから分からない。
(分からないんだ)
秋幸が何者なのか、そう問われたとき紅は答えた。一言、「分からない」と答えたのだ。クロウも同様だと言っていた。それを悠真は関係ないことだと思っていた。秋幸は秋幸であり、彼は信頼に足る人物だ。秋幸の雰囲気が、辺りを和ませるのだから。秋幸の深い赤色。
赤丸は言っていた。秋幸は、他の色の石を使うのが得意なわけではないと。赤の色だけ、紅の石だけ使うのが苦手なのだと。秋幸の一色は、確かに深みのある赤をしているのに。
深まる秋幸の赤色。
紅が倒れ、鮮烈な赤色は消えた。それに代わったのは、秋幸の深みのある赤色だった。