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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の迷い(2)

 しばらくして足音が響き、戻ってきた秋幸の背には、少年が背負われていた。おそらく、その少年は冬彦だ。

「逃げなかったんだな」

秋幸は悠真を見て、呆れたように言った。そして、背負っている少年を指し示した。

「義藤に斬られた冬彦だ」

秋幸はそう言うと、開け放した牢の向かいの通路に冬彦を寝かせ、彼自身も腰を下ろした。


 冬彦は小柄だったが、思ったより子供ではなさそうだった。眠っている顔立ちが出来上がりつつあるからだ。この冬彦は色の力を引き出す強大な力を持っている。色を引き出す力は野江に並ぶだろう。冬彦が赤色の相性が良ければ、と考えると恐ろしい。赤色との相性が良く、正規の術士ならば、野江を超えるまではいかずとも、相当の力を引き出せるはずだ。恐ろしい才能。恐ろしいが、悠真はどこか羨ましかった。

「大丈夫なのか?」

悠真は冬彦の身を案じた。優しい義藤は人を殺したりしないはずだ。けれども、冬彦を傷つけている。それだけ余裕がなかったということだろう。

「それは冬彦のこと?」

秋幸が悠真に問い返し、悠真は頷いた。すると秋幸は可笑しいものでも見つけた可能のように小さく笑ったのだ。平凡な印象の秋幸が一瞬高貴な存在に見える。そんな、穏やかな笑いだ。

「あんたさ、相当変わっているな」

秋幸は笑い、冬彦に目を向けた。

「大丈夫さ。義藤は優しいから命を奪うようなことを避けている。千夏が薬を使って強制的に眠らせているんだよ。そうしないと、冬彦は休んだりしないから」

悠真は目を細めた。

「なんで、そこまで?」

仲間を薬で眠らせるということは常軌を逸しているように思えたのだ。

「守るためだよ。春市と千夏は紅に刃を向けて、己が殺されることを覚悟しているのに、どうやら俺たちを守りたいみたいなんだ。だから、冬彦を眠らせて、俺を残して二人で向かった。優しいんだよ。春市と千夏は。年上だからと、冬彦と俺を守ろうとしているんだから」

秋幸は笑い、続けた。

「本当はね、俺だって二人と一緒に行きたかったさ。でも、二人の気持ちを踏みにじることは出来ないだろ。それに、眠る冬彦を一人残すことは出来ないから。とても迷ったけれど、ここに残ったんだ。春市と千夏と一緒に行けば、俺は多少なりとも二人の力になれるかもしれないけれど。同じ殺される道しか残されていないのなら、二人の優しさを拒絶する理由は無いから」

悠真は秋幸と冬彦を見比べた。秋幸は普通だ。普通で平凡。そういう印象なのに、どこか高いところから物事を考えているように思えた。秋幸が悠真の立場にいたら、より良い道を探し出して行動できるだろう。そう思えるほどだ。一緒に行きたいという気持ちを持ちながら、年上の二人のためにこの場に残る。二人の考えを知り、己の行動を決めている。それが秋幸。

「なんで、生き残る道を探さないんだ?」

悠真は秋幸に問うた。まるで、諦めたような秋幸の発言が信じられず、そのような発言をする秋幸が許せなかったのだ。

「紅は何も思わず人を殺すような人じゃない。なんで、生きようとしないんだ!」

声が裏返るほど荒立ったのは、悠真と年齢の変わらないだろう秋幸が落ち着いているからだ。年齢の近い人から、生きることを諦めたような発言を落ち着いて聞けるほど、悠真は大人でなかった。

「落ち着けよ。紅が優しい人だとか、紅が人を殺すような人じゃないとか、そういうのはあまり関係ないんだ。紅は俺たちを殺さなくちゃいけないんだ。立場上、俺たちを殺さなくちゃいけない。それが、紅の意に反していてもね」

悠真は秋幸の言葉の意味が分からなかった。悠真が戸惑うのが分かったのか、秋幸はゆっくりと続けた。

「紅は俺たちを殺さなくちゃいけない。それは、紅が色神だからだよ。己に刃を向けた人間を生かす。それは許されるようなことじゃない。厳格に罰を下すのも、紅の威厳と権威を保つためには必要なんだ」

悠真には秋幸の言葉の意味が分からなかった。威厳の意味も分からなかった。権威の意味も分からなかった。

「紅はそんな人じゃないんだ。俺は、紅と出会って紅の本当の姿を見たんだ。色神である前に、紅は一人の人間だから、紅の全ての行動に紅の人柄が出るんだ。紅はそんな人じゃない。そんな人じゃないんだ」

悠真が断言するのが可笑しいのか、義藤は更に小さく笑った。

「そうだね。義藤が信じるくらいだ。そんな変な人だったら、一直線に走り続ける義藤が一緒にいれるはずがないから。――それに、戸籍のはっきりしない義藤を、才能だけで朱護頭に起用することは並大抵のの決断力じゃない」

悠真は秋幸の考えが変わったように思えて嬉しかった。

「そうなんだよ。紅は優しい人なんだ」

悠真は嬉しかった。秋幸が生きることを諦めないことは、四人の隠れ術士が生き残ることに繋がるように思えたから。秋幸に生きることを迷わないで欲しかった。



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