赤と影の国の術士(7)
空挺丸には幾人もの人が搭乗していた。
「義藤、怒るなよ。本当に、今回はおとなしくしているつもりだったんだ。でも、状況が伝わってきてな。客人をこの場に届けるために来たのさ」
空挺丸の欄干から顔を覗かせた紅は、開口するなり、義藤に言い訳をした。
そして紅は高らかに叫んだ。
「柴、萩!もう止めろ!もう、十分だろ。柴、もう、充分だろ」
だが、二人は止めない。だから、紅は続けた。
「野江、義藤。柴を援護しろ」
紅は自ら手を出さず、野江と義藤に命じた。野江と義藤は紅の石を使う力を高めて、柴を援護した。
「手を出すな!これは、これは俺の戦いだ!」
柴が言い返したが、紅は柴の訴えを一蹴した。
「ふざけるな、柴。これは柴の戦いなんかじゃない。これは、火の国と影の国の戦いだ。柴は私の術士。柴の過去がどうとか、私には関係ない。私の前にいるのは、今の柴だ。かつて柴がどんな人であっても、私には関係ない。私にとっての柴は、私を包み込んでくれる大きな柴だ。柴、死ぬことは許さない!勝手に死ぬことは許さない!もう、充分だろ!」
紅の強い声は凛と響く。鮮烈な赤色を放ちながら、悠真の胸にも届く。どんな状況でも、紅が打開してくれる。それがとても嬉しくて、とても温かい。
「俺は、萩に感返しきれない恩がある。俺は影の国の術士だった。俺だけが、逃げ出せたんだ。あの時、俺だけが逃げ出したんだ!だから俺は、萩に……」
柴の赤が揺らぐ。大きさを持つ赤が揺らぐ。もしかしたら、柴の大きさは、柴が望んで手に入れたのかもしれない。
「萩は仲間だったんだ。大切な友だった。どんな時も一緒で、何があっても一緒だった。俺は萩に憧れていた。なのに、俺は一人だけ逃げ出した。だから俺は、もう逃げない!だから俺は……」
柴の贖罪の気持ちが、悠真にも伝わってきた。大きくて、温かな柴がそれほどの弱さを示すことが信じられなかった。柴の言葉を遮ったのは、やはり紅であった。
「ふざけるな!」
たった一言、その一言があたりを鮮烈な赤で覆っていく。どれほど周囲が騒がしくても、紅の声だけはしっかりと耳に届く。紅の存在感だけは揺るがない。
「柴、己が殺されて、それで罪が償えると思っているのか?萩が柴の親友ならば、親友を殺したという重荷を親友に負わせるのか?友ならば、一緒に生きる道を探せ。そのための手助けは、私ができる」
紅の存在が、紅の声が、あたりを赤く染めていく。