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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と影の国の術士(4)

 柴が大きく息を吐いた。その溜息は悠真の耳に届きそうなほど大きな溜息だった。何もかもが大きな柴らしい。だが、その大きさが他者を安心させるのだ。


「俺は、萩と戦っても勝てないだろうな。俺と萩の間には、大きな実力差がある。それは昔から変わらない。否定もしないし、生まれ持っても才覚が違うのさ。これは努力で埋めれるような、半端な差じゃない。萩、これは俺の自己満足のための戦いだ。幾多の戦いの中で、俺は何度も死線を潜り抜けてきた。そんな俺は、いつも思っていた。萩の分も生きなくてはならない。萩のためにも生きなくてはならない。だから、俺はここまで生き残ってきた。俺は萩に敗れるだろう。俺が敗れても、義藤や秋幸、冬彦に赤影がいる。白の色神を暗殺することはできないさ」


萩は言った。

「お前の言うことは筋が通っていないな」

萩は刀を抜いた。そして柴も身構えた。


 柴と萩は同時に駈け出した。


刀と刀がぶつかり合う。火花が飛び散る。柴の赤い羽織がはためく。体の大きな柴が力任せに刀を振りぬく。柴より長身で細身の萩はそれを受け流す。どちらが強いとか、どちらが優れているとか、そんなこと分からない。確かなことは、二人は戦う関係でないということだ。本来ならば、戦う必要もなければ、争う意味もない。

 刀で打ち合った二人は、距離をとると同時に紅の石を取り出した。柴も、萩も紅の石だ。

「俺たちは火の国の民。赤との相性が良い。でもな、萩。お前の紅の石、加工がなってない」

一色を見ることに長けた柴らしい言葉だ。


「お前の術の力は一流さ。それこそ、俺じゃ太刀打ちできない。正々堂々ならまだしも、不意打ちならば、歴代最強の陽緋野江でさえ敗れるのは当然だ。お前の剣術は一流だよ。それこそ、都南でも本気を出さなくてはならないだろう。――俺に勝機があるとすれば、加工のずれだろうな。萩、お前は一流の術士だ。そんな半端な加工じゃ、石が持たない。それこそ、かつて義藤の紅の石が砕けたようにな。俺が加工してやりたいぐらいさ」


柴と萩は同時に紅の石の力を使った。二つの赤い力がぶつかりあい、強い熱風があたりに放たれた。義藤が紅の石の力を使って守ってくれなくては、悠真たちは弾き飛ばされていただろう。

「柴の言葉は本当だ。術の力じゃ、萩の方が上だ」

秋幸は一色を見ている。それこそ、悠真よりも確かな目で見ているのだ。


 渦巻く赤色。

 放たれる熱風。


 赤色が熱を持つ。

 赤色が力を持つ。


 柴と萩の二つの強大な力が、命を飲み込むように、まるで刃のように辺りへと放たれた。

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