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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と影の国の術士(3)

 萩の言葉はとても低く、とても穏やかだった。無感情で、それ以上のことはない。


「萩、覚えているか?俺のこと」


柴が言った。柴のことを悠真は何も知らない。確かなことは、柴が萩とつながっているということ。その言葉が柴と萩のつながりを証明している。


「お前と出会ったのは、薄暗い部屋の中だったな。物心ついたころから一緒だったな。俺たちは術士の才覚を有し、俺たちは同じ年で、俺たちはいつも一緒だった」

柴の声は大きく響く。


「あの地獄のような日々の中、お前はいつもまっすぐだった。俺は、お前の大きさに憧れていたんだ。一緒に逃げ出そうと計画したこと、覚えているか?」


柴の言葉が、彼の隠された過去を明らかにしていく。


「萩、お前は天才だったよ。俺が一色を見ることができる特別な目を持っていると分かり、俺たちは一緒に加工を勉強したな。俺たちは影の国に利用される存在。生まれてすぐに人攫いにあって、影の国の支配下におかれた。俺たちは一緒に力を高めあった。俺たちは一緒に戦い続けていた。影の国の支配から、依頼された仕事を果たすために」


柴はさらに続けた。


「一緒に逃げ出そうと計画したのに、直前で見つかり、お前は俺だけを逃がした。あの後、一体何があったんだ?あの後、お前の身に何が起こったんだ?俺が先代の紅と先代の赤丸に救われて、表の世界で生きている間、お前の身に何があったんだ。――忘れたことなどなかった。俺は、一人で逃げ出して、一人で表の世界で生きた。いつも思っていた。俺一人、逃げて、俺一人、生き残り、俺一人、幸せになって良いのかと……」


柴は叫ぶように言った。

「一体、何があたんだ!萩、一体、何があったんだ!」


柴の声は悲鳴のようだ。

「お前は強いよ、萩。俺なんかよりずっと強いさ。萩は、誰よりも強かった。そして、誰よりも温かかった。みんな、お前になついていた。出口の見えない日常で、萩が俺たちの道標だったんだ。萩が守ってくれていた。萩が救ってくれていた。萩がいなければ、きっと今の俺はなかった。俺は萩のようになろうと足掻いたのさ。俺は、萩に近づくことができたか?」


誰もが慕っている柴が憧れた人がここにいた。


「話は終わったか?俺に関係のない過去の話は済んだか?」


柴の声は萩に届いていない。

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