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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と心を捨てた者(19)

 赤の色神は大きな力を持つ。心を捨てた者に対して、縄で縛るなど簡単な抑制は不要だ。意識を失わせても、目が覚めた時が恐ろしい。命を奪う。確かにそれも、一つの選択肢だ。


「答えは簡単だ」


一つ、悠真の横で声が響いた。それは、秋幸の声だ。


「義藤、忠藤。手を出していい?」


秋幸の声と共に大地が動く感覚を悠真は覚えた。大地が動き、そして土が松の体を捕えた。それはまるで、意志を持った蛇のように蠢き、松の体を押さえつけたのだ。目を向ければ、同様に「べるな」も押さえつけられていた。


「大丈夫、土は固くて重いから、人の力じゃ抜け出せない。これでいいでしょ」


秋幸は微笑んだ。悠真は思い出した。平凡な雰囲気を持つ秋幸も非凡な才能を持っていることを。

「秋幸、お前……」

義藤が言った。そして、赤丸は笑った。

「流石だ、秋幸」

赤丸は小刀を鞘に戻し、土に押さえられた松から離れた。赤丸の手からは血が流れ続けている。赤丸は布を取り出し、手のひらに巻くと、口を使って器用に傷を縛った。


 赤丸は数回、咳をした。

「色を押さえるのは、さすがに骨が折れるな」

縛った布でも流れる血を押さえることはできていない。それさえも気にすることなく、赤丸はゆっくりと秋幸に歩み寄った。義藤と同じ顔をして、義藤と同じ声をしているのに、赤丸と義藤は別人だ。悠真は薬師の小屋で赤丸と出会ってから、それを痛感していた。赤丸の方が雰囲気が優しい。柔らかい。それでも、射抜くような信念の強さがあるから、いつの間にか萎縮される。

「秋幸、赤影に入りたいんだってな」

赤丸は血の流れる手を秋幸の肩に乗せた。

「秋幸、お前は赤影には入れないさ。秋幸、お前は天才だよ。赤以外の色の力を引き出すことに長けている。――いや、違う。お前は、赤だけ色を引き出すことが苦手なんだ。相性が悪いわけじゃない。それは、紅だって気づいている」

赤丸はさらに続けた。秋幸の目が凍り付いていく。

「俺は厄色を持つ。厄色を持つ俺も、一色を見ることができる存在だ。加えて俺は、赤丸の証である赤の目を持っている。紅から言われてな、秋幸の一色を見るようにと。紅には、既に伝えている」

赤丸は血の流れていない手で、秋幸の頭を撫でた。

「赤影には入れることができない。表の世界にいろ。表の世界で紅城にいろ、秋幸。――俺は先に行く。赤影である俺が、お前たちと一緒に行くことはできないだろ」

赤丸は苛烈な目で遠くを見た。

「柴の戦いが始まった」

そして赤丸は走り去った。


「秋幸、あの老人も押さえていてくれ」


義藤は赤丸に斬られた老人を指し示した。そして、悠真たちも先へと進んだ。



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