赤と心を捨てた者(12)
悠真の目の前には、義藤がいた。義藤の紅の石の力が岩を叩きとおしたのだ。
「義藤」
悠真は思わず口にした。そして、違和感を覚えた。目を動かせば、もう一人、義藤がいる。秋幸と一緒に、人でなくなった二人の術士と戦っている。ぎりぎりの力の均衡。義藤と秋幸の二人だから、人でなくなった二人の術士と戦えるのだ。
「まったく、手のかかる」
その声は義藤の声。
姿かたちも義藤のもの。
なのに彼は義藤でない。
悠真は彼が誰なのか知っていた。
義藤は赤い夜の戦いで悠真を守ってくれた。
そして彼は、薬師の小屋で悠真を守ってくれた。
――赤丸
悠真は彼の名を思い出した。名を口にする前に、赤丸は駆け出した。
義藤と秋幸。人であることを捨てた二人の術士。二つの力が戦っている。渦巻く色の力の横を赤丸は風のように駆け抜け、駆け抜けながら小刀を抜くと、迷いなく年老いた男の胸を切り裂いた。
赤い色が花開く。
赤が残酷な色に豹変する。
赤はとても温かい色なのに。
赤はとても美しい色なのに。
赤はとても強い色なのに。
赤が残酷な色に豹変する。
赤い色が花開く。
瞬く間の出来事であった。悠真が義藤と秋幸に目を向けると、彼らは人でなくなった術士と交戦しており、赤丸の乱入に気付いていない。
赤丸は義藤の兄だ。
強いが優しい義藤の兄。
優しいが強い忠藤だ。
義藤は一見すると怜悧で、鋭い刃物のような雰囲気をしているのに、とても優しい。影の国の術士である松にも情けを示すほど優しい。悠真はそんな義藤が好きだった。そんな義藤を信頼していた。そんな義藤に憧れていた。
しかし……
義藤が強さを認める赤丸は、迷いなく命を奪ったのだ。その胸に刃を突き立て、赤を残酷な色へと豹変させたのだ。信じられなかった。悠真は、目の前の光景を信じることが出来なかった。