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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と心を捨てた者(11)

 義藤と秋幸は紅の石の力を使っていた。二人の持つ紅の石は、加工師柴が加工した優れた石。二人の一色にあわせられている。だからこそ、義藤と秋幸の強い力に耐えながら、強い力を発動し続ける。


 しかし……


 悠真が見ても分かる。義藤と秋幸は苦戦を強いられていた。悠真はあまりに無力で、ただ、その光景を見ていた。人でなくなった影の国の術士たちは、許されない力を使っているのだ。その力は、自らの一色を変え、強める。一色は個を示す色。それを捨てると言うことは、己を捨てるということだ。己を捨て、色神にさえ近づこうとする色。


「無理だ……」


悠真は不安を覚えた。義藤と秋幸が負けるなんて思いたくない。彼らは、将来を期待された優れた術士だ。彼らが負けると言うことは、火の国の期待の若手術士が命を落とすと言うこと。


 しかし……


 悠真は何もできず、ただ、義藤たちの戦う様子を見ていた。それは、赤い夜の戦いと同じだ。野江が術を教えてくれても、都南が刀の握り方を教えてくれても、悠真の一色が無色であっても、悠真は無力な小猿なのだと痛感させられる。悠真は無色の力を少しも引き出せていないのだ。

 悠真は戦いを見つめる。そして、悠真の目の前に黄の石で生み出された鋭い岩が迫っていた。故郷の村にあった鍾乳洞の岩のような鋭さ。貫かれれば命はないだろう。そんなことを悠長に思う時間はあるのに、悠真は避けることが出来なかった。足元は青の石の力によって生み出された水に満ち、悠真の足は冷えて、ぬかるんだ庭の土に取られていたのだ。ゆっくりと岩が迫る。


 なのに悠真は避けることが出来ない。

 声を出すことも出来ない。


 ゆっくりと、ゆっくりと岩が悠真に迫る。本当は瞬く間の時間であるだろうに、悠真にとってはゆっくりに見えた。ゆっくりなのに、なにも出来ない。走馬灯のように、故郷の光景が、祖父が、惣次の悠真の脳裏に浮かんだ。浮かんだのは、惣次が岩に貫かれて命を落とす瞬間。きっと、悠真も同じように命を落とすのだろう。


 死ぬ


 分かっているのに、不思議と不安はない。悠真は何もできず、ただ、迫る岩を見ていた。


 赤い

 赤い

 赤い


 悠真が見たのは赤い光だ。嫌な予感がしたのは、赤い夜の戦いのことを思い出したからかもしれない。誰かが悠真を守って傷つく。それがとても恐ろしい。



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