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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤と心を捨てた者(6)

 悠真には何が変わったのか分からなかった。しかし、確かに義藤の動きは変じていた。まるで、舞い遊ぶように、義藤の草履が砂利を踏みしめる。まるで、一定の拍子をとるように、義藤の足は砂利を踏みしめる。刀を振りぬく動き、赤い羽織がはためく動き、義藤が身をかがめ、紅の石の力を発動する。


――赤い光。

  赤の輝き。


 義藤がどれだけ赤に愛されているのか、それが分かる。思えば、悠真は赤の姿を久しく見ていない。今のような窮地なら、姿を見せてもおかしくないのに、赤は姿を見せない。赤だけでない。黒も姿を見せない。

 それでも、義藤が赤に愛されていることは事実だ。


「強い……」


秋幸の低い声が悠真の横で響いた。悠真は義藤を見た。実力の無い悠真でも分かる。今の義藤は、まるで子供を相手にしているような、遊んでいるような、そんな姿だ。明らかなる実力差が彼らの間にあった。これが、努力を惜しまぬ天才の力なのだと、悠真は理解した。

「このまま戦っても、俺には勝てないさ」

義藤が刀を一振りすると、押し負けた松が後ろへ後ずさった。すかさず襲いかかった、べるなさえも、義藤は紅の石の力を使って押しのけたのだ。


 明らかなる実力差。


 悠真は身震いがした。影の国の二人の術士は強い力を持っているのに、まるで赤子と遊ぶように義藤は戦っているのだ。ならば、義藤よりも優れているとされている野江や都南、佐久の実力はいかほどなのか。野江を打ち破った者の実力はいかほどなのか。

「このまま戦っても無意味だ。無意味な戦いで傷つく必要はない」

義藤の声は優しい。それでこそ、強いが優しい義藤らしい。敵にさえ、義藤は不器用な優しさを示すのだ。

「負けを認めてください」

義藤が言った。

「俺よりも強い術士が、火の国にはたくさんいる。今の力では、彼らと戦っても勝ち目はない」

青の石の力を発動させた松に、義藤は紅の石の力で防いだ。

「術の力、剣術、どちらも俺の方が上。――俺は強さを求める。それは、大切な人を守るための力。そして、殺さずに敵に勝つために強さを求め続ける」

義藤が刀を持ち駆け出した。小刀で受け止めた松だったが、義藤の方が実力が上だ。瞬く間に松を地面に倒すと、その首に白刃を突き付けて言った。

「――昔、言われたことがある。殺さない戦いに勝ち目はないと。けれども、俺はそうは思わない。明らかなる実力差があれば、殺さずとも勝つことが出来る。俺は、そう信じている」

義藤の背後から襲いかかった、べるなを、義藤は振り返ることなく紅の石ではじき返した。


「こんな、俺たちに。敵である俺たちに情けを示すつもりか?」


義藤の刀の切っ先は松の首に突き付けられている。

「火の国には、赤影という組織がある。俺は、赤影と影の国の術士が似ているように思うんだ。影の国の術士は依頼のために命を奪う。個を捨て、戦う道具となる。俺には、赤影と重なってみえるんだ。でも、赤影だって生きている。赤影にも思いがあり、感情がある。同じじゃないのか?火の国の言葉を口にする影の国の術士」

強いが優しい義藤らしい。



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