赤と心を捨てた者(5)
閉じ込められたイザベラは脱出しようともがいていた。もがきながらも、何も出来ない。団子屋で、柴と赤星を蹴散らした不死の異形とは思えない。下村登一の乱の時の異形の者の方が恐ろしく感じる。それは、異形の者の迫力が違うから。
――黒の色神は弱っている
それは間違いない事実だ。
思えば、イザベラは野江が襲撃された時も敗れていた。黒の色神は暴走した影響がいまだに残っている。今のイザベラは万全の状態でない。その力は、不死の異形でありつつも、あまりに脆弱だった。本来、黒の色神が力を分け与えるイザベラは、何よりも強い異形の者であるはず。それだけ、黒の色神は弱っている。ならば、同じように暴走した紅はどうなのか。あの強い紅は今、何を思っているのだろうか。
悠真の横で秋幸が紅の石を取り出していた。影の国の術士は二人。
「黒の色神は弱っている。イザベラは大きな戦力にならない」
秋幸が構えた。彼は戦うつもりだ。
当然だ。秋幸は強いのだから。
離れたところで義藤と松が戦っている。その中で義藤の低い声が響いた。
「秋幸、大人しくしていろ」
強い声。温かい声。
「俺が二人相手にする」
義藤の刃物のような横顔が微笑んだ。そこにあるのは、溢れ出る自信。
「紅から言われている。秋幸を危険な目に合わせるなとな。そしてもう一つ。――本気で戦えと」
義藤の構えが変わった。きらりと、刀の白刃が煌めく。風が吹くと、赤い羽織がはためく。まるで、義藤という存在を赤が守っているようであった。
「ふざけるな」
松が絞り出すように言い、怒りを露わにするように駆け出した。
「遅い」
答えたのは義藤だった。松を援護するように、もう一人の影の国の術士「べるな」も駆けだした。