赤と心を捨てた者(2)
秋幸が空を見ていた。空は晴れ渡っている。夏が近い時分の空は、とても高い。イザベラが悠真たちと少し離れたところにいた。悠真たちの状況は黒の色神に届いている。イザベラは誰を見ているのだろうか。とイザベラの目を見ても何も分からない。イザベラが見ているのは、無色の悠真であるかもしれないし、色神さえ知りえない計り知れない秋幸かもしれない。
「来る」
一つ言ったのは、秋幸だった。悠真は秋幸の視線の先を見た。それは空だ。
――色が変じる。
――空間が変じる。
辺りを包む色が変じる。
まるで初めからそこにいたかのように、彼らは現れた。
若い男が二人と若い女が一人と、年老いた男が一人いた。
「*********」
年老いた男が何かを言った。
「********」
一人の男が何かを答え、駆け出した。
「待て!」
叫んだ義藤が一人も通さまいと紅の石の力を使い、足止めをしようとした。それは、悠真が何もすることが出来ない間の一瞬の出来事。
悠真は何も出来ない。義藤が発した紅の石の力と同時に、イザベラが駆け抜ける男に飛び掛かった。
しかし……
火の国でも優れた術士の一員である義藤。その才は将来を火の国を支える存在だ。そして、黒の色神の異形の者「イザベラ」は不死の異形のうちでも別格の存在。
その二つの力をかいくぐり男は駆け抜けたのだ。もちろん、残った二人の術士が義藤とイザベラの足止めをしたことは言うまでもないが。
「影の国の術士だな」
義藤が低い声で言った。身構えているのは、二人の術士。年老いた男は数歩後ろに下がっている。
「狙いは白の色神だろ。たった一人で白の色神の命を奪うことが出来ると思っているのか?」
義藤の声は低い。
「声は届かないだろうがな」
影の国の術士の言葉を悠真は聞き取ることが出来なかった。それは、相手も同じこと。そんな義藤の発言に笑ったのは、残った三人のうちの一人だ。男の声だ。
「たった一人ということは間違っている。我らを止めた実力には敬意を払うが、我らも行こう。お前たちを倒してな」
それは火の国の言葉だ。
「火の国の民か……」
義藤が刀を抜いた。
「火の国で生まれ、火の国で鍛えられた」
男は答える。火の国で生まれて、火の国で育ったのに、彼は影の国の術士なのだ。それがとても異質なことのように、悠真は思えた。
「それでも、影の国の術士なのか?」
義藤が尋ねた
「ああ。俺は影の国の術士だ。――そして、命じられたのは白の色神の殺害。お前のことは知っている」
「*******!**************!**************!*************************!」
老人が何かを叫んだ。
「******」
火の国の言葉を話す影の国の術士が言った。それは異国の言葉。彼は二つの言語を操っているのだ。
「彼は言っている。二年前の戦いで、影の国は依頼を遂行することが出来なかった。生き残った影の国の民は彼のみ。彼は影の国での立場が危うくなった。だから彼は憎んでいる。火の国の術士を。だから、本来の依頼と異なるが、彼の判断でお前たちを排斥することを決めた」
――二年前
その言葉に聞き覚えがある。