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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の囚人(3)

 なぜ、愚かな男に仕えるのか。殺されることも覚悟して、紅に刃を向けるのか、その理由を悠真が尋ねると、強い目を見せた後、千夏は哀しそうに微笑んで答えた。

「私たちは、選別をかいくぐり、普通の人として生活をしていた。捨て子の私たちは戸籍を持たず、選別を受ける必要がないから。なのに、私たちが術士の力を持っていることが知られてしまったのよ。私たちは存在しない存在。紅の庇護の下にないないから、利用されるしかない。例え、火の国一の愚かな男に利用されると分かっていても、大切な人たちを守るには、それしかないから」

悠真はようやく分かった。千夏たちは大切な人を人質に捕られ、従うしかなかったのだ。だから、義藤とも戦った。己が殺されることも覚悟して、義藤を殺すことも覚悟して、紅に刃を向けたのだ。

 戦ったのに、義藤を助けようとしている。彼らは義藤を助けようとしている。しかし、助けるならば、ここに連れてくるべきではなかった。こんな牢の中では助かる命も助からない。

「ねえ、どうして義藤を連れてきたんだ?もし本当に助けたいのなら、連れてこずに紅城に残すべきだった」

悠真が言うと、秋幸が笑った。

「俺たちは囚人なんだ。だから、自分たちが解放されるために義藤を連れてきたんだ」

悠真は秋幸の言葉の意味が分からなかった。

「はあ?」

素っ頓狂に返した悠真に秋幸は笑い、膝を折ると義藤の手をとった。

「ごめんね、義藤。ごめんね」

秋幸は義藤の手を握ると答えた。

「分からない?俺たちはね、自由にしてもらうために義藤を連れてきたんだ。自分たちを自由にしてもらうためにね。もしかしたら、義藤が身を犠牲にして守った紅が偽者かもしれない。そんな想像、簡単にできたよ。俺たちと比べて、紅はとても優れた存在なんだから、自分を暗殺しようとしている犯人が近づいていることに気づいても当然だよ。ならば、ここに紅はいなくて、偽者かもしれない。第一、本物の紅ならば、俺たち隠れ術士より遥かに強い力を持っていて、簡単に勝てるはずだからね。俺たちは、あんたが偽者である可能性も考慮して、義藤を連れてきたんだ」

「え?」

悠真は、ますます意味が分からなかった。秋幸は笑った。

「もし、ね。あんたが偽者だとするよ。ならば、あんたを連れてきても、紅は俺たちを追わないかもしれない。俺たちを負わずに、暗殺しようとした犯人も、犯人が駒に使った隠れ術士も探さないかもしれない。それだと困るんだ。探してもらわないと困るんだ。探して、あの腐った官吏に勝って、俺たちを解放してもらわないと困るんだ。――だから義藤を連れてきた。もし、偽者の紅を捕らえたとしても、本物紅は義藤を助けに必ず来る。義藤は紅を守る最強の盾だろ。それに、色神を心から憎んでいた義藤が正規の術士となり、その上朱護頭になるなんだから、義藤は紅と何かしらの関係があるんだ。だから紅は義藤を見捨てたりしない。義藤を助けるためにこの場所を突き止め、義藤を助けるために、あの腐った官吏とも戦い、俺たち隠れ術士を殺しに来る。それでいいんだ。紅がここを探し出すためには義藤を連れてくることが必要で、紅がここを突き止めてくれれば俺たちは自由になれる」

秋幸はそこまで考えているのだ。紅にこの場所を突き止めてもらって、紅に解放してもらうために義藤を連れてきたのだ。万一、悠真が偽者であったとき、紅が犯人を捜すことを諦めないように。

 そんなことしなくても、紅はきっと犯人を探し出すはずだ。ここに義藤がいなくても、悠真がいれば助けに来てくれるはずだ、と。それは紅の人柄を知っている悠真だから断言できる、畏れ多いことだ。自分をどれほど高貴な存在だと思っているのだと、非難されるだろうが、悠真は断言できた。紅は誰であっても命を見捨てたりしない。

「義藤がいなくても、紅はここを突き止めるよ。紅はとても素敵な人なんだ。紅だけじゃない。陽緋の野江や朱将の都南、そして佐久に鶴蔵、延次も赤の仲間たちは素晴らしい人たちだ。官府や官吏の思うようにさせたりしない。義藤を連れてくる必要はなかったんだ」

悠真が断言すると、千夏が苦笑した。

「随分、紅を信じているのね。本当に奇妙な小猿ね。何を後悔しても、もう遅いの。私たちは前に進み続けるしかできないのだから。後は殺されるのを待つだけ」

千夏は何も後悔をしていない。紅に刃を向けたことも、おそらくこれから殺されるということも。

「ごめんね、義藤。もう少し頑張ってちょうだい」

千夏の言葉は偽りを含んでいない。 悠真は千夏たちを信じようと思った。信じるしか、生き残る道は無い。

「とにかく、私たちが紅の命を狙うのも、義藤と戦うのも、朱軍と戦うのも本意じゃないことは確か。それだけは忘れないで」

千夏の目が義藤を愛しそうに見つめていた。そして最後にゆっくりと付け加えた。

「もし、小猿と義藤が生き残ったのなら、決して私たちのことは義藤に伝えないで。赤い夜に戦った相手が、同じ山で育った仲間だと義藤は知らなくていい。知っちゃいけないの」

彼らが死ぬことを覚悟しているから、とても悲しく感じた。


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