赤が戦う理由(16)
白の色神と少し離れたところに、義藤に連れられた悠真は移動した。もちろん、秋幸も一緒だ。イザベラが少し離れたところからついてくる。悠真は義藤の赤い羽織を見つめながら、その背中を追った。思い出すのは、赤い夜の戦いだ。あの時も、こうやって義藤の背を追っていたのだ。あの夜、恐ろしかった義藤が、とても温かな存在に思えたのだ。そして思い出すこと。義藤が悠真を守り、刃に倒れたことだ。
――同じことを繰り返している。
悠真はそんなことを思った。あの時、無力な悠真が義藤を追いつめた。無力な悠真のために、義藤は傷ついた。今も同じだ。無力な悠真が、きっと迷惑をかける。
――同じことを繰り返している。
悠真は義藤の赤い羽織にしがみつきたい気持ちがした。
「義藤」
悠真は義藤を呼んだ。背を伸ばして、凛とした姿で歩く義藤からは、何も感じられない。影の国の術士の強さは本物だ。けれども、義藤は微塵も恐れていない。恐れているのは悠真だ。
「どうした?」
何も変わらない。義藤はいつもの義藤だ。出会った時と変わらない、義藤なのだ。
「俺さ、同じことを繰り返している」
悠真は思い出した。
倒れる義藤。
残酷な赤い色。
何も出来ない自分。
悠真は恐怖を思い出した。
「同じことって?――あの時は、俺の紅の石が無かった。だが、今は違う。柴が加工した紅の石がある。それに、秋幸もいるだろ。何も心配することないさ」
義藤は平然と答えた。悠真の不安も何もかも見透かされているような気がした。義藤の言葉には余裕がある。義藤の存在には余裕がある。その余裕がとても頼もしい。
「何も心配するな。悠真は、復讐にかられたのではなく、自らの意志でここへ来ることを選んだ。現に紅がそれを許した。当然だな。結局、下村登一の時も、黒の色神の時も、最後に助けてくれたのは悠真なんだから。どちらの時も、悠真がいなければ俺の仲間は誰かが欠けていただろう。感謝しかないさ」
義藤の手がそっと悠真の背中を叩いた。
――強いが優しい義藤。
その意味を悠真は痛感した。