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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤が戦う理由(15)


柴は大きさを持つ。とても温かく、頼りがいのある大きさだ。なのに、大きな色を持っているのに、どこか恐ろしい。それは、柴の持つもう一つの色だ。


 張りつめた色。

 色の主は、柴だ。


 白の色神が怪訝そうな表情をしていた。白の色神にも、一色が見えるのだから、柴の一色が見えているはずだ。だからかもしれない。


 張りつめた色。


 それを打ち消すように、戸が開いた。ゆっくりと、それでいて上品な動きは何とも義藤らしい。

「失礼します」

義藤が深く頭を下げた。赤い羽織には皺ひとつない。柴とは違う。悠真は、先日の義藤と鶴蔵の鍛錬の時間を思い出し、思わず目をそむけた。

「義藤、お前、戦えるだろ」

柴が唐突に言い、義藤は刃物のような顔立ちで微笑んだ。

「もちろんです」

柴は答えた。

「ならば、先陣を頼めるか?影の国の術士の足止めを頼む。敵は戦力を分割するだろう。それは、優れた力を持つ奴が一人いるから、そいつ一人で奥へ白の色神の命を狙いに来るはずだ」

柴には迷いがない。そんな柴に対して、冬彦が口を開いた


「一人だって?そんな一人の力じゃなかったぞ」


悠真は襲撃された宿屋を思い出した。破壊された宿屋を思い出すと、襲撃した者の力が分かる。

「一人さ。影の国の術士は複数いるだろうが、野江を襲撃したもの、白の色神を襲撃した奴は一人さ。一人でそれだけの力があるのさ」

白の色神が怪訝さを深めた。

「詳しいのね」

柴はげらげらと笑う。

「当然だ。――そいつは、俺を助けてくれた親友だ」

げらげらと笑う柴の目は笑っていない。だからこそ、柴が嘘をついているとは思えない。


「これ以上、影の国の術士を好きにさせたりしないさ。ここは火の国。俺は、赤の術士」


柴は目を細めて義藤に体を向けた。


「義藤。お前の力は俺を超えていうだろう。だが、最後の砦を俺に任せてくれないか?」


柴が義藤に頭を下げ、戸惑ったように義藤はさらに頭を下げた。

「出来る限り、俺が足止めをします。任せてください」

義藤の凛とした表情が印象的だった。


「秋幸とイザベラが手伝う。影の国の術士を侮るな。義藤」


柴が言い、義藤は深く頭を下げた。


「官府に残る人の避難は終了しました。すでに破壊された官府。あとは、どれほど壊したって、修理することに変わりはないのだから、遠慮なく暴れてください」


義藤の顔からは笑みがこぼれていた。


「官府から睨まれるな。修繕費も莫大なことだろうよ」


柴がげらげらと笑った。これはいつもの柴だ。大きさのある柴だ。義藤は笑った。

「ご安心を。きっと、黒の色神と白の色神が修繕費の援助をしてくれるはずです。何せ火の国は小さな島国。対外的な付き合いもなく、外交による利益を得るのは難しい。火の国は自国を自国で支える脆弱な国。修繕費を捻出するには、紅の石を輸出すれば良いでしょうが、官府が何というか……。火の国内部でごたごたを生み出すのは御免です。黒の色神と白の色神は紅に多大な恩がある。その紅が火の国の内部で窮地に立たされるようなこと望むはずがありません。それが、お二人の力が少しあれば解決することならば、尚更でしょう。――ですから柴。安心して暴れてください。俺も、一度壊してみたかったんですよ。何度も官府に煮え湯を飲まされて、その度にこの建物を壊してやりたいと思っていた。荒れ狂う感情をぶつける先を探していた。これが、絶好の機会ですね」


悠真は義藤の後ろに黒い物が見えたような気がしたが、恐ろしくて何も言えなかった。一つ、言葉を口にしたのは白の色神だった。


「確かに、あなたの言うとおりね。白の色神として、火の国へ多大な迷惑をかけたことは事実よ。だけれども、私が死んでしまっては何も出来ないわ。次の白の色神は火の国に恩などないのだから」


幼くとも流石白の色神と言うべきだろう。その存在感と言葉の強さは本物だ。義藤は微笑んで答えた。


「御心配なく。貴女の御身は、赤の術士が守ります」


強気な義藤だった。



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