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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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赤が戦う理由(14)

 これから戦いを前にした柴たちに勝ち目があるのか、悠真はただの傍観者でしかない。せめて、今度は自らの無力さにより、赤の術士が傷つくことが無いように祈るだけだった。


「壊れた官府でさらに戦って、壊す。紅城を戦場にするよりは、修繕費が安く済みそうだな」


柴が場にそぐわない冗談を言った。そんな冗談さえも、柴らしい。


「すみません」


頭を下げたのは、白の色神だった。


「私が火の国に災いを連れてきました」


頭を下げる白の色神は、幼い容姿と似合わない落ち着いた雰囲気が零れていた。


「白の色神のせいじゃないさ。罪の一端は俺にもある」


げらげらと笑う柴。柴の持つ空気は大きく張りつめた空気を包み込んでいく。そして柴は続ける。

「白の色神、俺は白の色神のために戦うんじゃない。俺たちは赤の術士。赤を持つ俺たちが戦う理由は一つだけだ。――まあ、今回は俺の私情を挟んでいることに間違いはないが……」


げらげらとした柴の笑い。そんな柴の存在が、空気を和ませる。柴の大きさが、怯える者の心を包み込む。

「いいか、一対一で戦うな。勝てる相手じゃない。特に、萩に出会ったら注意しろ。――悠真、秋幸。お前たちは義藤と一緒にいろ。そして、冬彦。お前と白の色神は俺と一緒だ。黒の色神のイザベラは義藤と一緒。そして、犬っころが戻ったら俺たちのところへ来てもらう」

柴は迷うことなく悠真たちに指示を出す。それは、紅のようで、野江のようで、都南のようだった。少なくとも、紅城で術士を率いる立場にいる人のようだ。当然かもしれない。柴は、先の陽緋であり、朱将であるのだから。


 しかし、悠真は柴を見ていて疑問が残った。狙われるのは、白の色神だ。ならば、彼女を守るために、皆が一緒にいるべきなのではないだろうか。

「柴、白の色神の命が狙われているのなら、皆で一緒にいるべきなんじゃないのか?」

悠真は柴に尋ねた。先の時代、陽緋と朱将を一人で兼ねて、今は加工師として名を馳せる柴に対して意見するなど、とても畏れ多いことだ。けれども、柴の大きさが全てを許してくれるように思えるのだ。


――皆で一緒にいる。


そんな悠真の提案に、柴はげらげらと笑った。それは大きさを持つ柴らしい、品の無い笑いだ。それと同時に、白の色神の微かな笑い声も響いた。くすくすと、着物の袖口で口元を覆い、笑っているのは儚い印象の強い白の色神だ。


「あなた、白が欲しているわ」


一つ白の色神が口にした。その言葉の意味が悠真には分かった。白の色神は核心を伏せつつも、彼女が悠真の持つ一色を知っているということを示している。もちろん、彼女は白の色神。色神である以上、一色を見ることが出来て当然だ。白の色神が悠真の持つ無色に気づくのは当然の流れなのだ。


「私は何も言わないわ。けれども、自らの一色を理解なさい。そして、私がこの国に足を運んだ理由を知りなさい」


白の色神の容姿は幼い。それは悠真が見ても明らかで、本来なら悠真が守ってあげたくなるような子供だ。なのに、その一言一言に重みがある。重みがあり、力がある。白い色は美しい色なのに、とても力強い。

「俺は……」

悠真は何も言えなかった。悠真が無色を有しているのは事実で、その無色は他の色が欲する色であることも事実なのだ。

 悠真は言葉に戸惑った。すると、柴がげらげらと品なく笑った。

「敵の正体は分かっている。一か所にまとまって、一か所で狙われるのも馬鹿な行為だろ。狙われるのが白の色神だけとは限らない。本来の狙いは白の色神であるだろうが、影の国はかつて紅を狙った経緯を持つ。警戒するに越したことはない。それにな、表で義藤が足止めをする。それで、影の国の戦力を分割することもできるだろ」

柴はさらにげらげらと笑った。

「義藤は強いぞ。あいつに最初の足止めを頼もう。一か所に扱って的を作るだけが、策略じゃないさ」

柴はげらげらと笑っていたが、その目は笑っていない。

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