赤が戦う理由(11)
赤星が犬の身体をそっと紅に摺り寄せた。赤星の身体は仔牛のように大きい。中身は口うるさい人間と変わらない。なのに、愛らしく見えるのは、彼の本性が犬だからかもしれない。その犬の仕草が、温もりが、愛らしさが赤星にはあった。基本的に人は犬が好きだ。例外として嫌いな人もいるかもしれないが、無駄吠えしない忠実な犬を嫌う人がいるだろうか。間違いなく、彼は優しい相棒だ。
「紅、二人は俺が見張っていよう。義藤も柴も気にかけてくれるさ。だからな、安心しろ」
紅は赤星の頭を撫でた。犬なのに、言葉を話す犬だと思うと不思議と萎縮してしまう。なのに、紅の赤星に対する扱いは、犬に対するものと同じだ。赤星は何とも嬉しそうに目を細めた。
「お前も死ぬなよ。赤星」
赤星はゆっくりと言った。
「――らしくないな。紅」
「何がだ?」
「お前なら、一人でも官府へ行くと思ったがな。義藤に何を言われた?」
微かに尾を振った赤星の頭を紅は撫でた。
「義藤に叱られたのさ。赤の術士は常に私を守ろうとする。なのに、私が危険に飛び込むのは、彼らの負担を増すだけだ。これまでの私は、自らの身を自分で守れる自信があった。赤の色神の力は、絶大だからな。だから、守られるのでなく守る存在でありたいと思った。――だが、今の私は違う。今の私には、己の身を守れるという確証がない。だから、こうやって大人しくしているのさ。信頼できる仲間の足を引っ張らないようにな」
赤星は低い笑いを含めて言った。
「先の官府での暴走が、相当に堪えたか」
赤星の言葉に、紅は笑いで答えた。
「絹姫は義藤が乗って行った。野江の浮雲が残っている。浮雲を使え。浮雲は従順で大人しいからな。悪いが、私の馬は貸さないからな」
「お前の馬に乗れる奴はいないさ。朝霧よりも頑固者だからな。秋幸、浮雲の用意をしろ。他の馬じゃ気もが座っていないから戦いの場に連れていけない。ほら、行くぞ」
赤星に言われて、秋幸は厩の中へ小走りで入っていった。悠真はその様子を見ていた。
「紅、白の色神に出会ったら、白の石を早急にもらえるか交渉してみよう。それで、野江と赤丸が戦えれば、戦況は変わる。山に無理をさせるのも酷だろ。山は、遠次よりも年上なんだからな。特に赤丸はすぐに動かせ。――厄など、恐れるな」
赤星は犬らしく身を翻した。