赤が戦う理由(9)
誰もが秋幸の本質を知らない。
紅とクロウが分からないと言った以上、色神が分からないと言った以上、秋幸の存在はとても曖昧なものになるのだ。
「俺は何なんだ」
秋幸の声は不安で覆われている。
「俺は……」
当然だ。一色は人を示す。その人の人柄も、全て示している。一色を否定されることは、全てを否定されるということ。
「秋幸は、秋幸だ」
紅の声はとても温かい。
「秋幸、私はね。秋幸を否定なんてしていないさ。私と黒の色神は秋幸の色を見て、理解が出来なかった。それは、突如一色が見えるようになったことにも起因する。秋幸、一色が見えることが出来る者は、それなりに存在する。火の国では、私に、柴に、悠真に、そして赤丸も一色が見える。赤丸は何も言っていないが、私と柴と黒の色神は、秋幸の色が分からないのさ。――だから、危険から遠ざけたい。だから、紅城にいて欲しい。それだけのことだよ」
紅の温かい言葉が響いた。
「秋幸、私は秋幸の色を見ている。それは、悠真の色も同じ。その色が何なのか分からないから、危険に晒したくない。昨日は状況が分からなかったし、柴が一緒だったから何も言わなかったが、今日は状況が違う。それだけだ。私も大人しくしている。二人も大人しくしていろ」
紅の声が赤く響く。その声が悠真の耳に響く。
「紅、悪いが俺は行っていいか?」
口を開いたのは赤星だった。明らかに赤星は先を急いでいる。戦うことが出来る術士が少ない以上、赤星が必要な戦力であることは事実なのだから。
紅が答える前に、秋幸が言った。
「俺は、紅の敵でないのですか?」
秋幸の言葉に、紅は答えた。
「もちろん」
「だったら、行かせてください」
秋幸の声は強い。
「俺は赤の術士です。俺のことを信じてくれるのなら、俺を行かせてください」
秋幸の声は強く、深みのある秋幸の一色が強い覚悟を示していた。
「危険な目には合わせられない」
紅の鮮烈な赤が輝く。それに反するのは、秋幸の深い赤色だ。
「紅、俺を信じてください」
「信じているさ」
「いえ、信じていません」
真っ向から紅に反する秋幸は、いつもの雰囲気と異なった。
「信じていると言っているだろ」
紅は強い。なのに秋幸はひるまない。
「信じているのなら、俺に命じてください。官府へ行き、紅のために戦うようにと命じてください」
秋幸はさらに続ける。
「紅が俺をここに残したいのは、本当に俺の身の安全のためですか?異質な一色をしている俺を、紅の目の届くところにおいておくためですか?」
紅は反した。
「監視など……」
紅でさえ、言葉を失う。それほど、秋幸の言葉は強い。