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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の囚人(2)

 黒服の敵である春市、千夏、秋幸、冬彦は義藤を助けようとしてくれている。それは、義藤と面識があるからなのか、義藤が朱護だからなのか分からない。ただ、彼らが敵でないということは分かった。悠真は空腹だったから、握り飯に手を伸ばしたが、それを口にする勇気はなかった。悠真は彼らの囚人だから。自由を奪われて、閉じ込められて、それで彼らの道具になる。

「俺はどうしたら良いんだ」

悠真は思わず呟いた。自分の行動で誰かが傷つく。その愚だけは犯したくない。それでも、悠真は何が正解なのか分からない。

 義藤に答えを求めても無駄だ。昏々と眠る義藤は命を削りながら生きている。今にも消えそうな義藤の命。今にも消えそうな義藤の色。一刻も早く手当てをしなければ、義藤は命を失ってしまう。


――義藤……


悠真は義藤を思った。彼は生きなくてはならない。悠真は心配をするしか出来なかった。

「心配しなくていいのよ。私たちは、これ以上、義藤を傷つけるつもりはないから」

悠真の独り言に返事をしたのは、女の声。見上げると、粗末な着物を身に付けた若い女性が立っていた。黒く長い髪を後ろに束ね、強い眼差しが印象的だ。声からすると、千夏。その後ろには握り飯を持ってきた秋幸もいた。

「あんたは?」

悠真は尋ねた。彼女は千夏のはずだ。

「昨日会ったでしょ。私は千夏。後ろにいるのは秋幸」

間違いない。やはり、彼らは黒服の敵だ。悠真は身を固めて、警戒した。彼らが義藤に危害を加えるつもりがないとしても、紅の敵であることは真実なのだ。

「警戒したところで無駄よ。命を奪われないように、慎重に行動することね」

千夏は言った。それは、敵か味方から分からない発言だった。

「一体何なんだ?あんたたちは何なんだ。一体、何が起こっているんだ?」

悠真は尋ねた。彼らが味方なのか、敵なのか。味方ならば、悠真と義藤が助かる可能性は大きくなる。しかし、彼らは紅の敵だ。紅を守る義藤の敵だ。

「紅は官吏に命を狙われている。きっと、官吏であるあいつにとって紅は気に食わない存在なのよ。今の紅が誕生して十年。紅は官府に呑まれなかった。官府の思い通りに動かず、優れた術士たちに恵まれて、命を狙うにも容易く出来ない。一部の官吏は、それが気に食わないの。私たちは、火の国で最も愚かな男に利用される、生きる価値のない存在よ。それでも、義藤を死なせたりしない。私たちが義藤を殺したとなったら、ばば様への裏切りになるから」

千夏は牢の鍵を開けた。なぜ彼らが義藤にこだわるのか、そしてばば様が誰なのかも分からない。それでも、尋ねることが出来なかった。

「秋幸、小猿が暴れないように見張るのよ」

千夏はそう言うと、牢の中に入り義藤の横に膝をつくと、そっと義藤の頬に手を触れた。

「熱が出てきている。白の石が必要かもしれない」

言うと、千夏は持っていた箱を開いた。義藤に巻いていた布を解き、傷口を確認すると箱の中から薬を出した。

「義藤は小さい頃から怪我ばかり。義藤だけじゃないけれど、義藤が一番怪我をしていた。いつも無茶をするんだから」

その声に義藤に対する敵意はなく、むしろ慈しみを感じた。悠真は間を計りながら千夏に尋ねた。

「義藤の知り合いなのか?義藤を助けてくれるのか?」

すると千夏は苦笑した。

「私たちは義藤の幼馴染よ。私たち四人は、義藤が八歳のころまで一緒に育った。義藤が、街にもらわれていくまでね。――義藤が術士になり、紅を守っていると知って驚いたよ。義藤は誰よりも紅を憎んでいると思っていたから。私たちが義藤と別れて四年後、つまり十年前に先代の紅が死んで、今の紅が誕生したことが義藤の気持ちを変えたのかもしれないね。せっかく選別をかいくぐって普通の生活を送る権利を得たのに、それを捨てて。馬鹿な義藤。紅を憎んでいたはずが、今や紅を守るために命をかけているんだから。だから、あんたを紅だと間違えたのよ。義藤が身を犠牲にして守るから」

千夏は手馴れた手つきで義藤の傷を確認し、手当てをした。悠真は千夏たちが悪い人だと思えなかった。それは、義藤と彼らが友達だから。彼らは友達である義藤を殺す覚悟を決めて、友達である義藤に殺される覚悟を決めて、一体彼らは何のために戦ったのだろうか。彼らは紅や義藤を真に憎んでいるわけではない。なのに、彼らは義藤と紅に牙を向けた。

「どうして、紅の命を狙ったんだ?」

悠真が尋ねると、千夏は手を止め悠真を見上げた。その目はとても強かった。



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