赤が戦う理由(1)
悠真は秋幸と一緒に自室で大人しくしていた。紅城が慌ただしい。その慌ただしさの中に悠真と秋幸は邪魔な存在だ。野江の身に何かが起こったのだと分かる。それでも、悠真には探る術がない。だから悠真は秋幸と一緒に部屋でじっとしていた。紅城を散策するにも、鍛錬をするにも、今は状況が悪い。悠真たちにできるのは、部屋でじっと野江の身を案じることだけだ。
「野江、大丈夫かな……」
悠真は呟いた。状況は分からない。ただ、良くないことが起きていることは分かる。
野江は紅城の要だ。野江がいるから支えられていることは大きい。野江の凛とした横顔も、上品な立ち振る舞いも、悠真の心に焼き付いている。
野江と初めて出会った時、悠真は故郷を失った小猿だった。都の紅城で生きる野江は、美しい赤い羽織を纏い、長い黒髪をなびかせて、悠真に教えた。言葉でなく、その纏う雰囲気で教えたのだ。田舎者の悠真と、野江が異なる世界で生きているのだと教えたのだ。
――強くなりなさいな。
野江の言葉が悠真の中で響いた。
――強くなりなさいな。
悠真が野江に教えられたこと。それは、悠真を大きくさせた。
「大丈夫だよ。きっと」
秋幸が悠真の独り言に答えた。「きっと」という言葉に、強さがあった。
「悠真、俺たちは昨日見たんだ。紅城で生きる術士の姿を。佐久を慕う給仕人の姿を、術士のために身を削って加工する柴を、強さを求める義藤と鶴蔵を見たんだ」
悠真は昨夜の様子を思い出した。誰もが、必死に生きていた。
「だから、大丈夫。赤の術士は、俺たちが思っている以上に強いんだ。だから、俺たちは信じなくちゃいけない。どんな状況に陥っても、赤の術士は紅を守り遂げると」
秋幸の言葉は確信を射ている。だが、一つ引っ掛かることがある。
――どんな状況に陥っても、赤の術士は紅を守り遂げる。
どんな状況。
どんな状況。
悠真は考えた。きっと、赤の術士は戦うだろう。仲間の死を乗り越えてでも、赤の術士は戦う。紅を守るために戦うのだ。
紅には、それほどの存在なのだ。
確かに、紅が命を落とせば次の紅が現れる。それを「良し」としないのが、赤の術士なのだ。
悠真も知っている。
悠真も囚われている。
悠真も引かれている。
紅という人の魅力を知っているのだ。