表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
624/785

赤が戦う理由(1)


 悠真は秋幸と一緒に自室で大人しくしていた。紅城が慌ただしい。その慌ただしさの中に悠真と秋幸は邪魔な存在だ。野江の身に何かが起こったのだと分かる。それでも、悠真には探る術がない。だから悠真は秋幸と一緒に部屋でじっとしていた。紅城を散策するにも、鍛錬をするにも、今は状況が悪い。悠真たちにできるのは、部屋でじっと野江の身を案じることだけだ。


「野江、大丈夫かな……」


悠真は呟いた。状況は分からない。ただ、良くないことが起きていることは分かる。


 野江は紅城の要だ。野江がいるから支えられていることは大きい。野江の凛とした横顔も、上品な立ち振る舞いも、悠真の心に焼き付いている。


 野江と初めて出会った時、悠真は故郷を失った小猿だった。都の紅城で生きる野江は、美しい赤い羽織を纏い、長い黒髪をなびかせて、悠真に教えた。言葉でなく、その纏う雰囲気で教えたのだ。田舎者の悠真と、野江が異なる世界で生きているのだと教えたのだ。


――強くなりなさいな。


野江の言葉が悠真の中で響いた。


――強くなりなさいな。


悠真が野江に教えられたこと。それは、悠真を大きくさせた。


「大丈夫だよ。きっと」


秋幸が悠真の独り言に答えた。「きっと」という言葉に、強さがあった。

「悠真、俺たちは昨日見たんだ。紅城で生きる術士の姿を。佐久を慕う給仕人の姿を、術士のために身を削って加工する柴を、強さを求める義藤と鶴蔵を見たんだ」

悠真は昨夜の様子を思い出した。誰もが、必死に生きていた。

「だから、大丈夫。赤の術士は、俺たちが思っている以上に強いんだ。だから、俺たちは信じなくちゃいけない。どんな状況に陥っても、赤の術士は紅を守り遂げると」

秋幸の言葉は確信を射ている。だが、一つ引っ掛かることがある。


――どんな状況に陥っても、赤の術士は紅を守り遂げる。


どんな状況。

どんな状況。


悠真は考えた。きっと、赤の術士は戦うだろう。仲間の死を乗り越えてでも、赤の術士は戦う。紅を守るために戦うのだ。


 紅には、それほどの存在なのだ。


 確かに、紅が命を落とせば次の紅が現れる。それを「良し」としないのが、赤の術士なのだ。


 悠真も知っている。

 悠真も囚われている。

 悠真も引かれている。


 紅という人の魅力を知っているのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ