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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色が切り開く未来(15)

今の野江は鳳上院家の末娘でなく、紅を守る陽緋となり、紅と共に戦う存在となった。それ以上でも、それ以下でもない。この陽緋という地位は野江が自らの手で手にしたものなのだ。野江が切り開いた未来なのだ。


「あたくしは、これからの陽緋よ。あたくしは、この手で未来を手にしたのですから」


柴は言った。


「陽緋となった今、これからどんな未来をみる?」


答えは決まっていた。


「あたくしは、紅と歩む未来を見るわ。もちろん、紅は命を狙われる存在。守って見せる」


「もし、紅が命を落としたらどうする?」


柴の信じられない問いがあった。紅が倒れる。そんなこと、考えたくもない。それでも、二年前、野江は紅の窮地を目の当たりにした。紅が死ぬ前に、己が死ぬだろう。そう思ったが、それも柴の問いに答えることにはならない。


 野江にとって紅は希望だ。失われてはならない希望。だが、時に無条理に希望は奪われる。


「ならば、あたくしは紅が望むように生きるだけよ。次なる紅が現れるのなら、あたくしは次なる紅を見定めるわ。そして、納得いく人物ならば、あたくしは守る。それが、先代の望みだった。そして、今の紅の望みでもあると思うから。――あたくしに未来をくれた人と共に歩むのよ」


「野江、後のことは頼んだ」


そして柴は続けた。


「次なる若い力がある。悠真と秋幸のこと、しっかりと育ててやれ」


柴は二人に一目置いている。昨日、柴が二人を連れて行ったことが示している。柴は一色を見る。一色とは、人の本質を指すものだ。だれであっても一色があり、同じ一色は存在しない。一色を見ることができる柴は、野江たちの本質を見ているのと同じなのだ。

 その柴が悠真と秋幸に一目を置いている。彼らは、紅城を率いる次代の力なのか、彼らは紅にとって大きな存在になるのか、戦うことしかできない野江には分らない。それでも、紅のためにつながるのなら、野江は悠真と秋幸を守るだろう。


 柴は何かを思っている。

だが、柴の強さを知っているから、野江は何も言えなくなる。二十年前、野江を迎えに来てくれた大きな存在。それが柴の強さなのだ。



 突如響く紅の声は、野江の脳に直接届く。それは、紫の石を通じて伝えられる言葉。


「官府に白の色神がいる」


柴は低く呟くと、慌ただしく立ち上がった。


「野江、後のことは任せたぞ」


まるで、死ににいく人の言葉だった。

 萩の強さを野江は知っている。柴の話から、柴と萩の深いつながりも理解できる。野江を救うために、アグノを牢にいれたのも萩だ。杉を逃がすように、野江に託したのも萩だ。アグノの話では、杉と萩には雪の国で脳を手術された形跡があるとのことだ。



――はたして、萩は今も柴の知る萩なのだろうか。


もはや、萩は柴と育った萩ではない可能性が高い。命令に絶対服従の、まるで人形のような発想をする杉を知っているから、野江は不安になるのだ。


――萩は人でない可能性が高い。


そんな萩と柴が戦って柴に勝ち目はあるのだろうか。


それでも野江は何も言えない、慌ただしく走り去る柴を見つめるだけだ。


――柴


野江は柴を思った。彼の大きさは本物だ。

 野江は紫の石を手に取った。身体の調子は万全でない。それでも、野江は紅の言葉を届けなくてはならない。


「紅、聞こえるかしら。慌てて白の色神のところへ向かってはいけないわ。一度、皆を集めて冷静になりなさいな」


柴は既に駆け出した。なのに、野江は他の仲間の足止めをした。それは、柴のためにおこなったことだ。他の術士が介入する前に、柴には時間が必要なのだ。


「柴。あたくしは、あなたの大きさに救われたわ。兄様と離れたあたくしに、柴は兄様のような優しさをくれたのですから。だから、必ず戻ってきてちょうだいな」


野江は柴の無事を願った。



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