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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色が切り開く未来(14)


まるで、柴が死を急いでいるように見えて、野江は胸を掴まれたような気がした。

「――それを、なぜ、あたくしに?」


問うと柴は笑った。

「信頼しているからさ。――野江は、二十年前の子供じゃない。過去と向き合う覚悟を決めた。その点では、俺よりも優れているさ。逃げた佐久も、都南も何を追いかけているのやらな」

柴はげらげらと笑った。それは、いつもの柴の笑いだ。

「俺たちは皆、過去を抱えている。影の国の術士と戦うことで、俺はもっと強くなれる。そう思うのさ」

柴は十分に強い。なのに、柴はさらなる強さを求めている。

「柴の言う強さって?」

柴はそっと野江の髪を撫でた。

「大きささ。人を包み込む大きさ、心の大きさ、俺はそれを求めてきた。萩を見て、先代を見て、俺が欲したものさ」

柴の大きさの理由が分かったような気がした。


「野江、紅を守ってくれ。紅は本心を晒すのが苦手で、いつも強がっている。俺たちは、紅の強さに甘えちゃいけない。紅も戦っているんだ。戦って、強くなろうと足掻いている。紅が弱さを見せられないのならば、俺たちは、そのすべてを理解して紅と歩まなくてはならない。義藤に甘えてばかりじゃ、情けないだろ。見せてやろうじゃないか。俺たち、赤の術士の底力をな。先代歩んだ俺たちならば、紅を導くこともできる。先代のことを知っているから、紅の手助けをすることが出来る」


柴の大きさ。野江はそれを感じた。


柴の大きさを見て、野江は兄を思い出した。

「柴、あたくしは不思議に思っているの」

野江が柴を見つめると、柴は首をかしげた。


「あたくしを迎えに来るように言ったのは、先代なのでしょう。一体、先代はどうやって、あたくしを見つけたのかしら」


野江は兄を思った。兄が野江を助けてくれたのだと信じていたかったのだ。


「先代赤丸は、術士か否かを見分けることが出来る人だった。先代赤丸が野江の力を見抜き、俺を差し向けたのさ」


柴は言った。だが、それでも疑問が残る。座敷牢のように、屋敷の奥に隠された野江の姿を、先代赤丸が見て術士の才覚を見出したとは思い難い。


「あたくしには、兄様がいたの。とても、優しい兄様だったわ」


柴が尋ねた。


「その兄は、今、どうしている?」


野江は答えた。


「分からいわ。もう、二十年も会っていないのですから。先代に、兄様に会いたいと懇願すると、先代は珍しく厳しい声であたくしに言ったわ。――術士となったのだから、過去と決別するように、とね」


野江は兄と会っていない。兄に会いたいと思っても、会えない。兄は今頃、家庭を築いているはずだ。

「そうか……」

柴は目を細めて、野江の頬に触れた。


「恩があるんだな、兄に」


自然と野江の目から涙が零れた。兄を思い出したのだ。

「あたくしにとって、兄はとても大切な人だったわ。もう、二十年も会っていないのですもの。きっと、兄はあたくしのことを忘れているでしょう。でも、風の噂でも構わないの。時々、あたくしのことを兄が思い出してくれて、それで陽緋となった妹のことを誇りに思ってくれれば、それで良いの」

柴の手は温かい。


「誇りに思うさ。歴代最強の陽緋と称される妹を持って、誇りに思わない人はいないさ」


 歴代最強の陽緋。


 兄に野江のことは届いている。


 そう思うだけで嬉しい。

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