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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色が切り開く未来(13)

柴はとても大きな存在。その柴でさえ、己の無力さを感じているのだ。

「柴はとても強いわ」

野江は思っていた。柴は強い。柴の功績は大きく、柴がいなければ野江も都南も佐久も仲間として戦うことが出来なかった。


「どうかな。俺は時に疑問に思う。己の存在価値というものを。それでも、俺は紅に笑っていて欲しい。紅に孤独を感じて欲しくない」


柴と野江は同じ気持ちだ。野江も紅に笑っていて欲しい。いつものように、無鉄砲で、野江をやきもきさせてほしい。その隣にいるのに、相応しい人物を野江は知っている。

「紅には義藤がいるわ」


野江は義藤を思い出した。紅を見つめる眼差し。生真面で几帳面な優しさ。不器用さは、時に義藤を刃物のように見せる。けれども義藤がいる限り、紅は一人でない。


「そうだな、確かに義藤がいる。――だが、俺たちも紅の手助けをしたいじゃないか。実はな、昨日、紅に追いつめられて分かったんだ。俺は先代に救われた。あの環境から引き出してもらった。そして今、今の紅に心を救ってもらおうとしている」

柴の目はとても温かい。続ける言葉に野江は引き込まれた。


「野江、俺は影の国の術士だった。影の国の術士となるべくして、火の国で育てられた。萩と知り合ったのは、その時だ」


突然語りだした、柴の言葉に野江は目を見開いた。


「どうして、そんなことを……」


野江は言った。柴が語りだしたことが理解できなかったのだ。


「野江、俺は死ぬかもしれない。萩の強さを俺はよく知っている。だから、知っていてくれないか?俺が死んで、萩が生き残ったときに、萩のことを助けて欲しいからな」


言葉の一つ一つに、柴の萩への信頼が込められている。柴が死ぬはずがない。野江はそう思っているが、断言できない。術士は常に戦いの中にいる。いつ何が起こってもおかしくない。


「俺は、影の国の術士として育てられた。影の国の本当の民は少ない。大抵は、各国で子供を拉致し、兵士として育てるんだ。その中に術士の子供がいれば幸運だと言うことだ。俺は物心ついたときには、影の国の術士だった。容姿からすると、俺は火の国の民だろうが、気づいたときは影の国の術士。赤子のころに影の国の術士に攫われたというのが正解だろうな。――まあ、すさんだ幼少期だったさ。その代り、随分と鍛えられた。その頃に知り合ったのが、萩だった。俺と萩は同世代で、同じように術士の才覚を有していたから、近しくなるには十分だった。俺のすさんだ心を救ってくれたのが萩だったのさ。俺と萩は、一緒に逃げ出そうとした。なのに、俺だけが逃げ延びた」


それは、野江が初めて耳にする柴の過去だ。野江の知らない、柴の過去だ。


「萩がどうなったのか俺は知らない。だが、今回の件に萩が関わっているのは間違いない。野江も萩の名を口にしていたからな。――俺と萩は、望まない戦いを続けた。その度に、萩は免罪符として矢守結びを結んでいた。あの矢守結びがある。萩が関わっている。ならば、俺は戦わなくちゃいけない。野江、庵原太作という名は影の国のもう一つの名。官府は庵原太作と偽り、影の国と通じて、暗殺を繰り返していた。先代を殺したのが誰なのか分からない。だが、庵原太作、影の国が関わっている可能性が高い。もちろん、二年前もな。もし、今回影の国との決着がつかずに俺が死ねば、この真実は伏せていろ。影の国は悪戯に刺激してはならない」


柴の目は、温かく、そして強い。


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