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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色が切り開く未来(9)


 野江は術士の手を取った。とても大きな手だった。


(おいで)


術士の声は優しい。野江は立ち上がろうとした。しかし、思うようにいかない。野江の足は、歩くことに長けていないのだ。思ってから、動き始めるまでに準備を要する。その野江に対して、何かを思ったのか、術士は野江を抱き上げた。野江の近くに赤い羽織がある。赤はとても美しい色だった。


(俺の名は柴だ)


柴に抱き上げられて、野江は鳳上院家の中を歩いた。野江が足を踏み入れたこともない場所がたくさんあった。大兄たちが戸惑っている。引き留めようとしても出来ない。

 大兄にけしかけられたのだろう。一人の使用人が柴に飛び掛かった。野江を奪い返そうとしているのだ。


――赤い

――赤い


それは、野江が初めて見た紅の石の力だった。


(言っただろ、俺は赤の術士。陽緋と朱将を兼ねる者。偽物だと思ったか?それほどの実力者がこんな子供だとは思っていなかったか?――だが、理想と現実は違うものさ。俺は紅に認められ、この地位を手に入れた。この赤い羽織は本物だ)


紅の石の力。それはとても美しい。


 鳳上院家の門前。大兄や使用人が野次馬のように集まっていた。頬を撫でる風。草の香り。とても心地よい。


(術士様)


引き留める声は鶴巳の声だ。


(あっしも、一緒に連れて行ってもらえやせんか?)


鶴巳は兄の奉公人。自由は許されない。術士に鶴巳まで奪う権力はない。そう持っていたが、術士は笑った。


(鶴巳だな。またの名を鶴蔵。紅は言った。野江と鶴巳を連れてくるようにと。俺が名を知っていることが、紅が全てを知っている証拠だ。だから、連れて行く。紅の名の下にな)


柴は大きく笑った。


(行くぞ、紅城へ。紅が待っている)


柴の腕の中、野江は未来を見た。その時から、野江は柴を信頼し、尊敬していたのだ。あの時、柴がいたから野江は自由を手にすることが出来た。

 紅城に仕えていて気づくこともある。紅には、遠く離れて隠された術士を見出すことは出来ない。


 ならば、一体どのようにして先代は野江のことを見つけ出したのか。

 なぜ、鶴巳のことも知っていたのか。


 野江には分からない。





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