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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色が切り開く未来(3)


野江は柴を傷つけた。柴が影の国と通じていることを知っているから、柴のことを信じていても、野江は柴を傷つけるようなことをしてしまったのだ。柴が加工した紅の石が影の国の術士の隠れ家にあった。


――柴が影の国と通じている。


野江はその事実を、紅にだけ伝えた。他の誰でもなく、紅にだけ伝えた。


(柴のことを、本当はあまり知らない。それは、遠爺も同じだ。柴は先代の紅が連れてきたそうだからな。真実は、先代が持って行ってしまったんだ。でも、それは野江たちのことも同じだ。私は、都南と佐久の過去も知らないんだからな。――私は義藤のことさえ、本当に知っているとは言いきれない)


紅は時に、野江の想像を超える。


(でもな、野江。彼らが今、私にしてくれることは真実なんだ。私は、過去を知らずとも、今の彼らを信じている)


紅は柴が影の国と通じていると知っても、柴を信じると言った。野江も信じている。信じているが、裏切られたような気持ちになるのだ。先代紅の暗殺に、影の国が関わっているのなら、尚更だ。

 あの、穏やかで優しい先代を殺した者と、柴が通じているのなら、野江は平静を保っていられない。柴への大きすぎる信頼が野江にはあった。


 涙が零れるのは、今の野江が弱っているからだ。野江は心身ともに衰弱していた。そんな時に、柴が野江を包み込むような大きさを示してくれるから、野江は安堵したのだ。安堵して、涙が零れる。

 柴の大きさが、温かさが障子越しに伝わってくるのだ。


 障子が開かれ、アグノが入ってきたのは、少し時間が経ってからのことだった。野江は夢と現実の間をうつらうつらと彷徨い、障子が開いた音で目を覚ました。そこにいるのは、アグノと柴と薬師葉乃だった。柴は薬師葉乃を抱きかかえている。


 野江は幼い頃、兄に抱き上げられたことを思い出した。

 紅城へ足を運んだ頃、柴も野江を抱き上げてくれていた。柴が未だ、陽緋と朱将を兼ねていたころの話だ。


 野江は身体を起こすことが出来なかった。目を開き、そっと三人を見つめていた。

「野江」

柴に呼ばれても、野江は返事をすることが出来なかった。


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