表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
610/785

緋色が切り開く未来(2)

 野江は目を閉じて息を吐いた。今以上の窮地は何度もあった。二年前の佐久や都南の方が重傷だった。下村登一の乱の時に、四人の隠れ術士と戦った義藤の方が重傷だった。これほどの傷は大したことはない。昨日まで平気だった。なのに、今、野江は死を意識している。


――紅、ごめんなさい。


野江は紅を思った。野江が守りたいと心から思った女性。それが「紅」だった。強く、弱く、美しい。それが紅なのだ。

 野江は紅と一緒に戦えない。これ以上、紅を助けることが出来ない。分かるからこそ、辛いのだ。


――紅、ごめんなさい。


昨夜、野江の布団に忍び込んできた紅。紅が抱える大きな不安。紅はいくつもの不安を隠して、必死に強くなろうとしている。その心の弱さを野江は一緒に背負うことが出来ない。

 紅を残して死ぬのだと、そんな不安があるから、野江は胸が苦しくなった。


「野江」


野江を呼ぶ声がした。大きさのある声は、柴の声だった。不思議だ、柴の声を聞くと、妙に安堵した。

 昨日、野江は柴を責めた。責めて、追いつめた。なのに、今の柴の声がいつもと変わらないから、野江は安堵するのだ。柴はいつもの大きな柴なのだ。それが分かると、とても嬉しい。


「お前、食べないなら俺が食べるぞ」


なぜ、柴がここに来たのか。野江は分からない。


「アグノを呼んでも良いか?」


柴の穏やかな声が響いた。

 見透かされているのだ。

 柴の一声で証明された。この野江の不調も柴は見透かしている。

「なんでもなくてよ」

野江は答えた。声を出すのも辛い。


助けを求めることは出来ない。


紅城は窮地に陥っている。野江が足を引っ張ることは出来ない。影の国との戦いが生じる。野江は戦力にならないどころか、足を引っ張っているのだ。それが、情けない。

 げらげらと、柴の品のない笑いが響いた。


「嘘、つくなよ」


その声が妙に優しくて、野江は心に温もりを覚えた。


「野江、俺は一色を見る。お前の色が翳っている。それが分からぬ柴じゃないさ」


温かい。


野江の目から涙が零れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ