官府と白い昼(12)
ソルトが火の国に足を運ばなければ、このような事態に陥らなかった。赤の国にいる白の一色に興味を持ったから、このようなことになったのだ。雪の国の城でじっとしていれば、殺される時も迷惑をかけることはなかった。雪の国の民は、どの国よりも色神を神として崇めている。命を扱うことが出来る神だから。雪の国にいれば安全だったのに、ソルトは、火の国に足を運んだ。
――過ち
それはソルトの過ちだ。ソルトの愚かな過ちが火の国と赤の色神に迷惑をかける。
何も言えない。
ソルトは過ちを訂正する術を持たない。
「私は……」
ソルトは俯いた。ソルトが犯した過ち。その過ちのために、火の国が被った被害の大きさははかりしれない。
「紅様はお考えです。これを機に、庵原太作を捕えると。確かに、官府が依頼すれば、次の庵原太作が現れるでしょう。影の国は報酬さえ支払えば、何度でも庵原太作を提供するでしょう。――それでも紅様はお考えです。赤の色神紅と術士の力と、官府の力の歩み寄りを。官府は今、弱体化しております。これを機に、官府に庵原太作がいかに無意味なのか知らしめることで、次の庵原太作が現れる可能性を低くすることが出来ると、お考えです。――庵原太作には、紅様も苦い経験をお持ちです。二年前の襲撃も庵原太作の仕業ならば、これを機に先手を打つことが可能なのです。ですから、白の色神様。赤の術士を頼ってください。紅様は、貴女の死を望んでいません」
そして一呼吸おいて、源三は言った。
「昨日、陽緋野江が敗れた際、野江を助けてくれた人物がおります。その者の名はアグノというそうでございます」
ソルトの身体から力が抜けた。
――アグノ
――アグノ
――アグノ
彼が生きていた。そして、今も生きている。それだけで心が救われたような気がしたのだ。