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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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官府と白い昼(11)


 影の国は強い。その強さだけで国を作っているのだから当然だ。


「それは当然のことよ。私は影の国に命を狙われているわ。だから、私はここに来たの。人知れず殺されるなんて、ごめんよ。私は生きてみせるわ。生き残って、雪の国に帰るの。私の命が雪の国にとって必要ならば、私は命を落とすことが出来ないの。――影の国は、昔から官府と通じていた。庵原太作という名を使ってね。だから、私はここへ来たのよ。少しでも、影の国に近づくために、少しでも戦いを有利に進めるためにね」


太陽は天高く輝いていた。


 源三は微笑む。


「庵原太作には、紅様も頭を抱えておられます。庵原太作という名を語る影の国の術士が歴代の紅の暗殺に関わっているのは、紅様の知ることでございます。だから、紅様は今回、影の国の術士を表に引き出すお考えでございます」


「紅が……」


ソルトは何も言えなくなった。紅が影の国の術士と戦う理由はない。今、影の国の標的は紅でないのだから。紅が戦う必要はない。紅が命を危険にさらす必要はない。


「なぜ、紅が……」


冬彦も戸惑っていた。当然だ。冬彦は紅を巻き込まないように、一人で戦う覚悟を決めていたのだから。

 だからソルトは言った。


「紅に伝えて頂戴。今は身を引いてと。紅や赤の術士が危険な戦いに挑む必要はないわ」


ソルトは自らの声が強くなっていることを感じていた。


「それは違う」


源三がゆっくりと口を開いた。


「儂と紅の面識は浅いものです。それでも分かることもございます。――冬彦も分かっているのではないか?紅は冬彦が白の色神と一緒にいるのではないかということも想定していた。いや、紅は確信を得ていた。だから昨日、陽緋野江に冬彦と白の色神の捜索を命じた」


ソルトは顔の知らない赤の色神紅の姿を思い描いた。冬彦が信頼を置く人物。この火の国の色神。強大な力を持つ赤が選んだ人物。


「昨日、陽緋野江は影の国の術士と戦い敗れた」


源三の言葉に冬彦が身を固くしていた。

「野江が……」


野江という人が、術士の頂点に立つ存在であることをソルトは知っている。つまり、火の国の術士は、誰も影の国の術士に敵わないということを意味する。

 ソルトは言った。

「野江は術士の頂点でしょ。その人が敵わないのよ。赤の術士が危険にさらされる必要はないわ」

紅に迷惑をかけたくない。紅とは他人だ。どのような人なのかもしらない。それでも、ソルトは紅に迷惑をかけたくないのだ。

「それでも、白の色神。貴女は冬彦を巻き込んでおります」

源三の目は強い。彼も信念を持って生きている人だ。その信念の所在をソルトは知らない。それでも、吉枝という人が心底信頼している人だ。どのような人なのか想像が出来る。源三の一色を見ても想像できる。


「それは……」


痛い所を突かれた。ソルトは冬彦を巻き込んだ。本当に紅に迷惑をかけないようにするならば、冬彦を巻き込んではならない。冬彦は優れた術士だ。これからの未来、紅を支えることが出来る人だ。赤の術士の中枢に入る人だ。

 ソルトは甘えていたのだ。冬彦の優しい言葉に甘えていたのだ。己が生き残るために、冬彦に甘えていたのだ。


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