表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
605/785

官府と白い昼(10)

 ソルトは想像した。源三の気持ちを考えた。


 源三が官吏になると家を飛び出した時、家はまだ没落していなかった。その家が没落したのは、源三が家を飛び出した後のこと。おし、彼がいたら、家も救われたかもしれない。その罪の意識が、源三を家から遠ざけていたに違いない。源三は帰りたかった。けれども、帰れなかった。


 今、目の前に家族がいる。なのに、本心で喜べない。



――庵原太作



 その名が二人を引き裂いている。


――庵原太作


その存在が二人の間に壁を作っている。


 吉枝はソルトの命を狙う庵原太作を警戒し、源三は紅の命を狙う庵原太作を警戒している。庵原太作という、影の国の総称が二人を引き裂いている。


 吉枝を巻き込んだのはソルトたちだ。吉枝が浅間五郎が話した「庵原太作」のことを教えてくれたから、ソルトは影の国の術士に通ずる鍵を見つけることが出来たのだ。吉枝が源三といがみ合う必要などないのだ。


 ならばソルトに何が出来るのか。


 ソルトが吉枝のためにできることは何なのか。


 吉枝はソルトのために口を開かないだろう。それが分かるから辛い。吉枝が二つの思いの間で引き裂かれる姿は見たくない。


 ならばソルトに何が出来るのか。


 ソルトが吉枝のためにできることは何なのか。


 そしてソルトは布を払い落として姿を見せた。にらみ合う二人はソルトの姿を見ていない。

「私たちは、庵原太作に通ずる者を探しているの。庵原太作は影の国だから、影の国が私の命を狙っているから、私は先手を打つためにここに来たのよ」


 源三が振り返り、源三の目がソルトを捉えた。そして源三の一色がさらに乱れる。


「あなたは……」


 ソルトは火の国にとって異人だ。鎖国をしている火の国にとって、本来は存在しないはずの人間だ。


「ソルト」


冬彦が小声でソルトを諌めたが、ソルトは気にしなかった。


「私の名はソルト。白の色神と言った方が、分かりやすいかしら」


ソルトが言うと、源三は目を見開き、そして柔らかく微笑むと深々と頭を下げた。


「失礼をお詫びいたします」


源三の言葉は優しい。そして、彼は続けた。


「紅様も庵原太作の正体については、つかめずにおります。庵原太作と通じている官吏もつかめずにおります」


当然だ。


ソルトは思った。影の国が正体を掴まれるようなミスをするはずがない。影の国はエリート暗殺集団だ。時には戦争に加担し、情勢を大きく左右させる。もし、雪の国が他国と戦争をするのなら、莫大な財力で影の国の術士と兵士を傭兵として雇うだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ