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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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官府と白い昼(9)

紅のことを引出し、吉枝は術士を追いつめていく。


――うまい。


ソルトは感心した。冬彦には出来ないことだ。年齢が強さとなる吉枝だからできるのだ。もう、術士は逃れられない。


「紅様が違うとおっしゃるのなら、か弱い年寄りと子供に対して助け船を出してくださりませんか?」


吉枝は深々と頭を下げた。最後まで攻撃するのではない。頭を下げることを忘れない。吉枝が頭を下げることが、彼らの立場を変える。

 命令されたのではない。

 負けたのではない。

 か弱い年寄りに頼まれ、優しい術士が労を割いただけ。吉枝が術士の心理を操作している。それだけだ。


「承知した。確認してこよう」


吉枝が深々と頭を下げ、術士の一人が綱を超えて、官府の中へと足を踏み入れた。


 それからしばらくの間、ソルトたちは外で待たされた。


 術士と共に、一人の男が姿を見せた。年老いた男は吉枝を見て、目を細めた。吉枝の一色が乱れた。ソルトは身を布の隙間から、吉枝の様子を見た。

「術士殿。ご婦人方は儂が案内いたしましょう」

年老いた男の一色を見て、ソルトは納得した。彼の色を見て、ソルトは官吏の男が悪い男でないと理解したのだ。庵原太作と通じている男の一色を見て、ソルトは心地よさを覚えた。


 冬彦が荷車を引き、ソルトは官府の中に足を踏み入れた。



 官府は破壊されていた。黒の色神の使う力「異形の者」が官府内部で暴れるのを、ソルトは感じていた。戦ったのは、赤の色神と赤の術士たちだ。官府は完全に崩壊したわけではない。いたるところが封鎖されていたが、使える部分もあるようだった。

 瓦礫があるから、荷車を引くのが難しい。それに、建物の中に荷車は入れない。


 冬彦が苦戦していると、年老いた男の官吏お吉枝は立ち止まった。そして吉枝は口を開いた。

「生きておられたのですね」

すると、年老いた男は答えた。

「まだ、するべきことがあるのでな」

そして、一呼吸おいて、年老いた男は続けた。


「なぜ、庵原太作のことを知っている?」


年老いた男の声は強い。それに同じように、吉枝も答えた。温かかった二人の一色が乱れている。混乱と、不信の渦の中に二人はいる。


「それは、私も同じです。なぜ、庵原太作のことを御存知なのですか?たとえ、貴方でも、私は庵原太作と通ずる者を信じることは出来ません。源三様」


そして、年老いた男も続けた。


「それは儂も同じ。庵原太作は紅様に刃を向ける者の通称。その名を吉枝が知っていることを儂は理解できない」


源三という名をソルトは知っている。それは、官吏となった吉枝の夫の名だ。彼が生きていて、目の前にいる。一色が示している。本当ならば、吉枝は喜ぶ場面だ。源三の一色を見ても分かる。彼も吉枝に出会えたことを喜んでいる。



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