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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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官府と白い昼(4)


 ソルトは歩くのが難しい。だから、吉枝が蔵から荷車をだし、ソルトは荷車に座った。白に近い髪の色は人目を引くから、ソルトは頭から布を隠して姿を隠した。その荷車を冬彦が引く。吉枝が荷車の後ろを歩く。荷車は道の凹凸にそって揺れる。


ソルトは目を閉じ、じっと荷車の揺れを体で感じていた。


 ギシ

 ギシ


 荷車が揺れる。揺れる荷車に乗り、ソルトは都を見ていた。都の人々は、平穏そのものだった。遠目では官府の様子に異変はない。そびえる官府は権力の象徴で、紅城と相対する存在だ。その官府を見ながら、ソルトは冬彦の背中を見ていた。


 アグノと違って、冬彦の背中は小さくて薄い。夏が近づく時分の着物は薄手だから、冬彦の背中の肩甲骨が浮かび上がって見せる。大人に近づく骨格、筋肉、その背中をソルトは見ていた。その背中を見ていると、とても冬彦がたくましく見えた。


 冬彦の息がはずんでいる。ソルトは冬彦に甘えっきりなのだ。冬彦がソルトに対して親切を働く理由はない。冬彦の優しさが痛いほど伝わった。

 体の弱い、無力な白の色神を前にして、冬彦は何を思っているのだろうか。そんなことを考えるたびに、ソルトは辛くなる。赤の色神紅は、自ら刀を持ち前線で戦う力を持つ。黒の色神クロウは、戦乱の宵の国と戦い続けることで統一した。

 赤の色神や黒の色神ほどとはいかずとも、多少なりともソルトに戦う力があれば、自らの身を守るだけの力があれば、日常生活を送るだけの丈夫さがあれば、もしかしたら異なる結果につながるかもしれない。

 医学院がソルトの全てを奪ったのだ。幼い日々の自由も、健康な体も、母も、友も、何もかも奪ったのだ。


 そして今、医学院が奪った健康があれば、ソルトは大切な人を戦いに巻き込まずに済んだのかもしれない。


 こみ上げる医学院への憎しみ。


 医学院がなければ、ソルトの人生は違った。アグノの人生も違った。今、ソルトが倒れれば、医学院が再興することは間違いない。また、逆戻りなのだ。


――必ず生き残る

――必ず生き残ってみせる



 ソルトは言い聞かせた。自らの命が背負う重みを知っているからだ。


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