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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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官府と白い昼(3)


 官府へ行って、ソルトは何をするのか。

 影の国の術士と出会ったところでソルトは無力な存在。

 戦って、勝つことなど出来るはずがない。


 それでも、ソルトは官府へ向かう。


 生きるために、官府へ向かう。



 何をするか分からなくても、冬彦が戦うということは間違いない。アグノが不在の今、冬彦がソルトの保護者なのだ。


 冬彦がソルトと一緒にいる理由はない。ソルトは白の色神だが、何の力もない。赤の色神に助けを求めることもできたはずなのに、冬彦はそれをしない。火の国の民である「赤の術士冬彦」の方が、雪の国の民よりソルトのことを理解してくれている。


 黒の色神により団子屋が襲撃され、人々が逃げ惑わなければ、ソルトは冬彦と出会わなかったかもしれない。あの時、冬彦が何の疑いもなくアグノを救うために白の石を使ったから、今があるのだ。あの時、半ば脅すように冬彦を連れたソルトのことを、冬彦が許しているのか、許していないのか分からない。ただ、彼がここにいるということは事実だ。


 ソルトは戦いに無縁の存在だ。雪の国では暴動など生じない。冷たい雪に閉ざされて、白の色神が生み出す白の石に依存した国を作っているから、誰も白の色神に不信を抱かない。赤の色神のように、白の色神は術士を囲って軍を作ったりしない。ソルトは白の石を生み出すだけの存在なのだ。


 何の力もない。

 ただ、石を生み出すための道具だ。


 だからソルトは知らない。命のやり取りをする場所へ向かう前の不安を。恐怖を。何も知らないのだ。


 黒の色神が統べる宵の国は戦乱の国と聞く。戦乱に満ちて、戦いが常だという。きっと、黒の色神が戦いを知らないソルトを見たら、笑うだろ。


 赤の色神が統べる火の国は平和な国だ。しかし、色神と官府が権力を二分している。紅の石が力のある石だからこそ、赤の色神は色の石を生み出すだけの道具にならない。赤の色神自身にも戦う力があるのだから。その力が、官府と色神との二重政治へとつながっている。官府との争いは、赤の色神を戦いへと導く。だから、赤の色神も戦いを知っているのだ。


 ソルトは何も知らない。しかし、想像したことはある。戦いを前にすると人はどのようにするのか。想像したことがある。

 想像することと現実は異なる。今のソルトはとても落ち着いていた。それはまるで、医学院で生きていたころと同じだ。実験に呼ばれれば、命を落とすかもしれない。それでもソルトは自らの番号を呼ばれることを恐れてなどいなかった。


 なぜ恐れなかったのか。

 なぜ平気だったのか。


 理由は簡単だ。医学院のころは死を恐れてなどいなかったのだ。そして今は、自らの死を考えていない。必ず大丈夫だと信じているのだ。冬彦がいるから、信じられるのだ。


「行くか」


 朝食を食べて、顔を洗って、何の変哲もない朝が終わった後に冬彦が言った。行く場所は一つだ。


――官府へ


 ソルトは冬彦に背負われて、吉枝の家を出立した。


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