表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
597/785

官府と白い昼(2)


 白を基調とした着物を纏い、ソルトは居間へと向かった。家族が食事を摂る部屋だ。その部屋には、三つのお膳があり、一つ一つに食事がよそわれていた。冬彦が一つのお膳の前に座り、今にも箸を掴もうとしていた。


 冬彦は昨日と同じ着物を着ていた。吉枝の息子が着るはずだった着物だ。二日目になると、冬彦が衣装に馴染んでいた。品の良い着物と冬彦がマッチしているのだ。


 具の多い味噌汁には湯気が上がり、玄米ご飯が小ぶりの茶碗によそわれている。漬物に、卵焼きがあった。


「たんと食べなさい」


吉枝もお膳の前におり、ソルトは残る一つのお膳の前に座った。


 ソルトは箸を使うのが苦手だ。それを気遣ってか、ソルトの膳には匙が乗せられていた。


「いただきます」


冬彦が手と手を合わせた。神に祈るかのようで、少し異なる。それでも、祈りの姿勢とよく似ていた。思えば、冬彦は物を口にするとき、いつも手を合わせていた。同じように吉枝も手を合わせる。食べ物に祈りを捧げているのだろう。


 大げさな言葉もない。

 いただきます、という言葉が感謝と祈りを表していた。


 その姿勢に憧れて、尊敬の念を抱いて、ソルトも真似た。火の国の文化を一つ一つ知るたびに、ソルトは雪の国のことを忘れることが出来るのだ。


 吉枝の手料理はとても美味しかった。

「ソルト、良い着物だな。吉枝ばあちゃんのか?」

冬彦が箸を置いて言った。

「いや、帯は小物は私のじゃが、着物は朝市で買ってきたんじゃよ。ソルトによく似合う」

吉枝は微笑んだ。

「私には子供がおらん。それでも、子供を望んだ日々はある。少しの間、この婆の娘の代わりをしてもらえんかい?」

吉枝があまりにも温かく、美しく微笑むから、ソルトは何も言えなくなってしまった。この着物には吉枝の優しさが込められている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ