官府と白い昼(2)
白を基調とした着物を纏い、ソルトは居間へと向かった。家族が食事を摂る部屋だ。その部屋には、三つのお膳があり、一つ一つに食事がよそわれていた。冬彦が一つのお膳の前に座り、今にも箸を掴もうとしていた。
冬彦は昨日と同じ着物を着ていた。吉枝の息子が着るはずだった着物だ。二日目になると、冬彦が衣装に馴染んでいた。品の良い着物と冬彦がマッチしているのだ。
具の多い味噌汁には湯気が上がり、玄米ご飯が小ぶりの茶碗によそわれている。漬物に、卵焼きがあった。
「たんと食べなさい」
吉枝もお膳の前におり、ソルトは残る一つのお膳の前に座った。
ソルトは箸を使うのが苦手だ。それを気遣ってか、ソルトの膳には匙が乗せられていた。
「いただきます」
冬彦が手と手を合わせた。神に祈るかのようで、少し異なる。それでも、祈りの姿勢とよく似ていた。思えば、冬彦は物を口にするとき、いつも手を合わせていた。同じように吉枝も手を合わせる。食べ物に祈りを捧げているのだろう。
大げさな言葉もない。
いただきます、という言葉が感謝と祈りを表していた。
その姿勢に憧れて、尊敬の念を抱いて、ソルトも真似た。火の国の文化を一つ一つ知るたびに、ソルトは雪の国のことを忘れることが出来るのだ。
吉枝の手料理はとても美味しかった。
「ソルト、良い着物だな。吉枝ばあちゃんのか?」
冬彦が箸を置いて言った。
「いや、帯は小物は私のじゃが、着物は朝市で買ってきたんじゃよ。ソルトによく似合う」
吉枝は微笑んだ。
「私には子供がおらん。それでも、子供を望んだ日々はある。少しの間、この婆の娘の代わりをしてもらえんかい?」
吉枝があまりにも温かく、美しく微笑むから、ソルトは何も言えなくなってしまった。この着物には吉枝の優しさが込められている。