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紅城の赤い時間(25)
自室に戻る道中、秋幸は何も言葉を発さなかった。柴の色を見て、加工の場に足を運んだ時と別人のようだった。もちろん、悠真も何も言わない。何も言えない。
自室に戻っても秋幸は口を開かなかった。そして最後に一つ、呟くように言った。
「俺は明日戦うよ」
言った秋幸は俯き、何も言わずに布団に入った。
――戦う
悠真の中でその言葉が反芻した。本当に戦いは生じるのか。
今の紅城は平和だ。明日の戦いを待っていることなど想像できない。
――戦いなんて生じなくていい。
――赤が残酷な色に変ずるところなんて見たくない。
悠真は布団を被り丸くなった。
悠真は戦いを恐れている。
恐れて、恐れて、隠れたい気持ちだった。
傷ついた野江を見て、自らが怪我をしたような気持ちになった。
襲撃された宿屋を見て、冬彦を案じた。
悠真は臆病で、弱くて、情けない。とても孤独だ。なのに、今、無色の声が聞こえない。寂しくて、いたたまれない気持ちになった。辛くて、悲しい。
大丈夫。
大丈夫。
悠真は自らに言い聞かせて、目を閉じた。