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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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紅城の赤い時間(24)

戦いが好きな人などいないだろう。義藤は臆病な悠真と異なるが、戦いに身を浸して快楽を覚えるような人ではない。なのに、義藤は戦うと言う。


――こつん


転がる石の音が聞こえた。まるで、何かを打ち消すように、義藤は石を投げているのだ。


「義藤は命を落としてはいけやせん」


鶴蔵の低い声が響いた。そして義藤が答える。


「大丈夫です。俺は死にません。命を落とせば、それで終わり。守ることが出来ません。だから俺は生き残ります。いつも、しぶとく生き残ります。――明日がどうなるか分かりません。野江が敗れ、都南と佐久が消え、柴が秘密を抱え、赤影が万全でない。それに、紅のことも心配です。ですが、俺は大丈夫だと信じています。何があろうと、俺が憧れた赤の仲間は瓦解したりしません」


――こつん


石を投げる義藤。悠真は今日、義藤という人の占める重さを知った。荒れる柴と野江が生み出した不和を冷静に見つめていたのも義藤だった。思えば、赤い夜の戦いの前、義藤は未来を見て囮となることを選んだ。


 義藤という人がいなければ、紅城の赤の仲間の関係性は変わっているかもしれない。世良くも悪くも、義藤が潤滑油のように働いているのだ。几帳面で真面目さを隠した義藤らしい。


「聞きました。今日、野江のために戦えたのですね」

義藤の穏やかな声が響いた。


「ですが、あっしでは敵いやせん。あっしは、傷つく野江を見ることしかできやせんでした」

今日、野江が襲撃されたこと。野江と鶴蔵がどのようにして戦ったのか、どのようにして脱出したのか悠真は知らない。


「そんなものです。だから、俺たちは諦めることなく足掻くことしかできないのです。――いつか、野江に叱られそうですね。鶴蔵に何をさせるのかと。それでも、鶴蔵が望むのなら、俺は一緒に鍛錬を積みます。一人でするのも、二人でするのも同じですから」


義藤は本当に優しい。


「悠真」

秋幸が悠真に囁き、悠真の背を秋幸が叩いた。

「帰ろう」

秋幸の言葉に悠真も頷いた。柴が「面白い物」と称したのは、義藤と鶴蔵の関係だ。義藤は一見すると関わりにくいが、実際は異なる。ここまで温かく優しい人はいないだろう。


 悠真と秋幸は自室へと戻った。歩みなれた厩を軸に考えれば、自室の場所ぐらい分かる。悠真は秋幸と歩きながら何とも言えない気持ちになった。


――柴

――義藤

――鶴蔵


紅城で生きる彼らが抱えているもの、彼らが支えているもの、彼らを支えているもの。


 赤い色を持った彼らは、悠真にとって憧れだった。


 憧れの術士

 憧れの紅城

 憧れの赤色


なのに、実際に生きる彼らは実に多くのことを抱えている。彼らも人間なのだと、悠真と何ら変わらないのだと教えられる。何を言っても傷つかない、とても強い人など存在しないのだ。


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