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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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紅城の赤い時間(23)

義藤は地面の小石を拾って投げた。拾って投げて、もう一つ拾って投げた。


「同じです。俺も鶴蔵も同じです。とても強い人を守りたいと思うから、惨めになるし、情けなくなる。それでも、守りたいと思うから強さを求める。俺は、もっと強くなりたい。もっと、もっと、もっと強くなりたい。戦う力だけでなく、信頼される人になりたい。支えることが出来る人になりたい。同じです」


義藤は適当に小石を投げていた。それは日ごろの義藤から想像できない様子だった。義藤は十分に強い。なのに、恐ろしいくらい貪欲に強さを求めているのだ。自らを戒め、律し、さらなる強さを求めている。それが不思議だった。


「今日もあっしは野江を守れやせんでした。こうやって、義藤が無理をしてでも教えてくれているのに、あっしは無力でございやした」


義藤は小石を投げた。


こつん、と音を立てて小石が転がっていく。


鶴蔵の言いたいことも分かる。野江を守れる人など存在しない。野江は歴代最強の陽緋なのだから。

「それなら、俺も同じです。結局のところ、俺は肝心なところで無力です。紅の心を支えることが出来るのは、俺ではありません」


義藤は小石をさらに投げた。

まるで、義藤と鶴蔵の秘密を覗いているような罪の意識はあったが、悠真は好奇心を押さえることが出来なかった。


「義藤、今日は調子が悪いのに無理をさせてしまい申し訳ございやせん」

鶴蔵は言い、義藤は低い笑いを返した。


「なんでもありません。俺は丈夫ですから」


こういう義藤の様子を見ると、悠真は彼の本質を感じるような気がするのだ。義藤という人はとても温かい。


「でも、野江が心配しておりやした」


義藤はさらに低い笑いを返した。


「俺は男ですから、強くなくてはなりません。強くならなくてはなりません」

義藤は石を投げた。

「義藤は強いから」

鶴蔵が俯いていた。義藤は石を投げた。


――こつん。


石が広場を転がっていく。暗がりの中、見えずとも音が聞こえる。


「明日は俺が戦います。野江にこれ以上無理はさせられません。それに、……柴のことも気になります。鶴蔵も柴のことで何か知っているのではありませんか?俺は、彼と出会って十年、あんな柴を初めて見ました。それがとても辛いのです。だから、明日は俺が戦います。紅のために、野江のために、柴のために。俺の人生を救ってくれた人たちの役に立つのなら、俺が戦いを恐れることはありません」


義藤という人がいかに強いか、彼の発言の一つ一つで教えられる。強さは力だけでないのだ。

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