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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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紅城の赤い時間(22)

 義藤から柄杓を受け取った鶴蔵は柄杓に口をつけ、そして力尽きるようにおろした。


「すみやせん」


鶴蔵は頭を下げていた。義藤は鶴蔵の横に腰を下ろした。


「どうか、しましたか?」


義藤と鶴蔵の会話を盗み聞きするようで罪悪感を覚えたが、赤の仲間の真意に興味があった。悠真にとって彼らは尊敬すべき先輩であり、術士たちであるが、少し謎が多い存在であるのだから。


「すみやせん」


鶴蔵が頭を下げている。


「どうかしましたか?」


小動物のような鶴蔵に、とても穏やかな声色で義藤が問い返した。一見すると近寄りがたい義藤の雰囲気が、とても優しい色で包まれる。強いが優しい義藤らしい。


「あっしは、情けないぐらい弱い存在でございやす。野江を守りたいのに、あっしには守る力がございやせん。そもそも、術士の野江を守ろうとする時点で、間違っているのでしょう。――それでも、あっしは自分が許せず、こうやって邪魔をしておりやす」

俯く鶴蔵と、天を見上げる義藤。二人の色はどこか似ていた。


「俺は何もしていません。むしろ、あなたに謝らなくてはいけません」

「あっしに?」


鶴蔵が困惑していた。義藤は視線を天から地へと落としていた。

「俺はずっと、あなたのことを鶴蔵と呼んでいました。本当は、違う名だと言うのに。とても失礼で、申し訳ないことをしていました」


生真面目な義藤。そして、気の弱そうな鶴蔵。二人の組み合わせはとても異質なのに、流れる色が穏やかだから、とても心地よい空間となっていた。鶴蔵は苦笑した。


「あっしは鶴蔵でございやす。鶴巳という人は、もうおりやせん。あっしは野江の家に奉公に出されやした。兄弟が多く貧しあっしの家では食べていくことが出来なかったからでございやす。あっしは、奉公に出されて、ご主人様から鶴巳という名を捨てられ、鶴蔵という名を与えられやした。ですから、あの日、鶴巳は死にやした。だから、あっしはここの自己紹介でも鶴蔵と名乗り、佐久はんや都南はんが鶴巳と呼ぶのを止めやした。あっしは鶴蔵でございやす。あっしを鶴巳と呼ぶのは野江だけで、野江が鶴巳と呼ぶから、その名が特別な名になるのでございやす。野江だけに呼んでもらいのでございやす。どうか、あっしのことは鶴蔵とよんでください」


鶴蔵の言いたいことが何なのか悠真は分からなかった。それでも義藤には分かったらしい。

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