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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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紅城の赤い時間(20)


 声が響いていた。音も響いていた。


鋭い声が何者なのか聞き覚えがある。


「義藤?」


柴は言っていた。


――義藤には睨まれたくない。


義藤が関係しているのは明らかであったが、こんな辺ぴな場所に義藤がいることが信じられなかった。


「こんなところで、一体なにが?」


悠真は小走りで先を急いだ。野暮な好奇心が悠真の足を速めていたのだ。ぺたぺたと、木造の外廊下を歩く二つの足音と共に、悠真は先を急いだ。そして、外廊下の切れ目、大きな別棟が離れたところにあった。離れた建物の前には大きな広場があり、からくりで造られた灯りが広場を照らしていた。広場には二人の男がいた。灯りと、からくりで生み出される赤い光がそこにあった。


 広場には藁で造られた人型の人形が二体あり、二人の男が木刀で藁人形に打ち込んでいた。

「あれは……」

悠真は目を細めた。一人は分かる。赤い羽織を脱いだ義藤であった。剣術を習い始めた悠真でも分かる。義藤の流れるような太刀の動き、細身の義藤らしい身軽な動きがそこにあった。動きまでもが、義藤の品の良さを示している。夜中に鍛錬を積むとは、野江が認める「努力を惜しまぬ天才」と称された義藤らしい。しかし、悠真は義藤と一緒に鍛錬を積むもう一人の姿に驚いた。


「鶴蔵だね」


秋幸も悠真の横から広場を覗き見ていた。隠れて見ているのは、二人が隠れて鍛錬を積んでいるからだろう。


「なんで鶴蔵が?」

悠真は思わず口にした。


 鶴蔵は稀代のからくり師だ。空挺丸を作ったことは、鶴蔵の大きな功績の一つだ。鶴蔵の生み出すからくりの力に術士は支えられ、確かな技術は術士の負担を軽くする。そもそも、鶴蔵は術士の才覚に恵まれなかった存在だ。からくり師として紅城で働き、紅からの信頼も厚い。立場からして、鶴蔵が刀を握る必要はなく、鶴蔵の役目は裏方として術士を支えるものだ。なのに、鶴蔵は義藤と一緒にいる。義藤と一緒にいるから驚いたのではなく、鶴蔵が鍛錬を積んでいることに驚いたのだ。


 流れるように美しい義藤の太刀の動き。そして、ぎこちない鶴蔵の動き。二人を見比べれば、義藤と鶴蔵の実力差は明らかだ。なぜ、二人が一緒にいるのか。なぜ、鶴蔵が鍛錬を積んでいるのか。悠真は二人の動きを見つめた。それは、秋幸も同じであった。


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