紅城の赤い時間(17)
柴でない加工師が加工した石は義藤の一色との微妙に異なり、石は容易く砕けてしまったのだ。
「加工師は術士を支える存在だ。術士にとって、加工されている紅の石は命を支える綱のようなもの。下緋や小緋程度なら、多少のずれのある石でも平気だろうが、義藤や野江、佐久ほどの術士となると俺の加工師した石が必要だ。加工されていない石を使うことも可能だが、力が半減以下になってしまうからな。彼らの才を活かすには、加工された紅の石が必要なんだ」
優れた加工師柴が加工の重要性について語られる。それはとても貴重な経験だ。
「慣れているとはいえ、加工には甚大な力を使うんでな、加工するとしばらくは動けなくなる。だから、人を近づけないところに、加工場を作ってもらったのさ。一日一つ、加工するのが精一杯。俺の苦労、分かってくれるか?」
柴が冗談めいた表情で言った。
「特に、都南の刀を加工した時は大変だった。あれは、七日七晩かけて加工を続けたのさ。都南は、色を引き出す力を失ったが、都南の一色は術士の才覚を示している。あの一色に合わせて、いくつもの紅の石をつなげる。あの刀を加工した後は、寝込んだな。流石の俺もな」
柴は大きく息を吐いた。
「安心しろ。何があろうと俺は紅の術士だ。裏切ったり、見捨てたりはしない。義藤にもそう話した。明日、野江がどの程度戦えるのか分からない。今日、野江が無事に戻ってきたことだけでも感謝しなくてはならないからな。明日は、俺も動く。不安なら俺を見張ってろ。俺は、紅を裏切ったりしないからな」
柴の大きさは本物で、悠真は居心地の良さを感じた。柴が笑った。
「お前たちも義藤と同じ。俺を案ずるなら、何の心配もいらないと笑い飛ばしてやる。それで、良いな」
柴がゆっくりと手を持ち上げ、悠真の頭の上にその手を乗せた。
「今回の敵は影の国だ。何の心配もいらない。何も心配するな。すぐに片が付くさ。――そこに掛布団があるから取ってくれるか?朝まで眠れば、元気になるさ」
言うと柴は部屋の隅を指差した。そこには畳まれた薄手の肌掛け布団が置かれてあった。
秋幸が立ちあがり、薄手の肌掛け布団を広げると柴の体にかけた。
「俺はもう眠い。このまま寝かせてくれ」
そこまで言うと、柴は目を閉じた。それでも、口はゆっくりと動いている。
「お前たち、眠れないなら東のからくり始動場へと行ってみろ。面白い物が見れるぞ。ああ、そうだ。俺が教えたとか言うなよ。義藤に睨まれたくないからな」
秋幸の目線が悠真にむき、目で促されるように悠真は柴の体を横たえた。
「それでも俺たちに教えてくれる」
秋幸が言うと、柴はもごもごと答えた。
「紅が認めた。俺も認めた。他の仲間も認めた。――お前たちは、紅城の中枢に入る存在。俺たちの上を行く存在。だから、知っておけ。赤の仲間の姿をな……お前たちは……」
そこまで言って、柴の口の動きが止まった。続くのは穏やかな寝息だ。