紅城の赤い時間(16)
悠真は恐れていたのだ。
大きさのある柴は親しみやすく、とても温かい。しかし、それが本当の柴の姿なのか分からないのだ。夕刻の荒々しい色を悠真は忘れることが出来ない。
「恐れるなんて、そんな……」
悠真が否定すると、柴はさらにげらげらと笑った。
「色が乱れている。悠真も秋幸も。ということは、秋幸。お前も一色を見ているな。色が変わっている。深みが増している。人の色が変わるのは、何かしらが変わるからだ。経験したこと、感じたこと、思ったこと、人と話したこと、それらが色を変えていく。急激な色の変化は急激な環境の変化を意味する。――秋幸。お前は俺を恐れている。あの夕刻の部屋で、俺や野江、紅の対話を耳にしてお前の色は変わった」
一色を見ることが出来る柴に隠し事は出来ない。それは、紅も同じだということだ。
「いつから見える?見えるから、加工に興味を持ったのか?」
「俺は……」
秋幸は俯いていた。悠真はその様子を見ているだけだ。柴はげらげらと笑った。
「安心しろ、誰にも言わないさ。知っているのは、色を見ることが出来る俺と、悠真と、紅と、黒の色神くらいさ。だから秋幸。お前はここにいろ。紅城の紅の近くにいろ」
柴にはかなわない。
悠真は痛感した。
柴は何でも知っている。
そして、全てを許してくれる。
その大きさが、とても温かい。
この柴が秘密を抱いているなんて、野江と言い争ったなんて、悠真は忘れてしまいたかった。
「加工に興味があるのか?」
柴は大きく笑った。
「はい」
秋幸が答え、柴はゆっくりと話した。
「加工は簡単なことさ。紅の石の力を引出し、使い手の一色と近い所で固定する。それだけのことさ。原理は簡単だけれども、加工はとても難しい。それは、加工師には術士の一色を寸分の狂いなく見る必要があること、そして紅の石の力を細かく引き出す力が必要だからだ。俺以外の加工師は、一色を見ることができない。色を感じることが他の術士より長けているから、色を想像することが出来る。術を使うことが出来ても、繊細な色の引き出しが下手だから、一色と違うところで色を固定してしまう。だから、簡単に紅の石が駄目になってしまう。強い術士が使えば、尚のこと紅の石に負担がかかるからな。悠真、秋幸お前たちは下手な加工師が加工した紅の石を使った義藤の戦いの結末を知っているだろ?」
問われて、悠真は赤い夜の戦いを思い出した。あの、義藤が秋幸たちと戦った、あの夜の戦いだ。