紅城の赤い時間(14)
大きな赤色が溢れ出ていた。
赤い色が満ちた部屋は閑散としていて、まるで何かの儀式を行っているようであった。部屋の中に物は少なく、あるのは複数の紅の石であった。部屋の中央に、赤い羽織を纏った柴が陣取り、柴の前には台があり、その台の上には紅の石があった。
「違うな。もっと違う」
柴がまるで独り言のように言葉を発していた。柴の左手には赤い布が幾重にも巻かれ、右手には紅の石で造られただろう金槌があった。
柴が左手を紅の石にかざすと、台に置かれた紅の石が力を発する。その力の引き出し方が安定しない。それは、柴が調整しているからだろう。
少しずつ、少しずつ、力の出し方を変えながら、柴は右手に持たれた紅の石の金槌を振りかざした。発する力を変えながら、柴は紅の石を金槌で叩いた。優しく、何度もたたいた。その度に、紅の石の力が安定してく。
建物から大きな赤が溢れ出ているのは、柴が紅の石から発する力が大きいからだ。その大きさは、野江を思い出させる。これが野江のために加工される紅の石だと分かるのは、柴が発する紅の石の力が野江に近いからだ。そして柴はおもむろに立ち上がり、部屋の端に置かれた紅の石を取った。それは、色を失って砕けた紅の石の残骸だ。残骸を柴は横に置き、再び台の前に座った。
「まだ、残っているか?野江の力が……」
色を失った紅の石に柴は手をかざした。確かに、残骸からのわずかな力が発せられている。それは、特別な目がなければ気づかないような色だ。
「そう、そう」
柴が紅の石の力をさらに細かく調整した。細かく調整して、金槌で叩いていく。
――加工
悠真はそれが加工なのだと理解した。紅の石の力を、加工師が微妙に調整しながら発し、術士に近い所で固定する。固定すると紅の石は加工が終了し、合わせた一色を持つ術士と紅以外使用することが出来なくなる。
その光景はあまりに神秘的で、あまりに美しかった。
発せられる色が美しい。
温かい。
悠真はその光景に、溢れ出る色に見とれていた。
加工に一色を見る目が必要だということが、術士としての才覚が必要だということは間違いないだろう。目がなければ、術士の一色に正確に合わせることが出来ない。
微妙に変わる紅の石の力は、野江の一色に近づいていく。
悠真のこめかみからは汗が流れていた。長い時間がたったということかもしれない。同じ姿勢を続けたため、背中や腰が痛み始めた。それでも、悠真は目をそむけることが出来なかった。悠真たちが来る前から、柴は加工を続けている。一体、どのくらいの時間を費やして加工がおこなわれるのか想像もつかなかった。
柴が強く金槌で紅の石を叩いたとき、紅の石から発せられる色が安定した。
加工が終了した証だった。