紅城の赤い時間(13)
建物の雨戸は締められている。木窓を閉めてしまえば、中は暗いだろうし、暑いに違いない。それでも窓は固く閉じられ、中の様子をうかがい知ることは出来ない。僅かな隙間から、悠真の目に見える柴の一色が溢れていた。大きさのある赤は微妙に変化していた。
「悠真」
秋幸が悠真を呼んだ。悠真と秋幸は木窓に目を近づけていた。二人の顔は近く、秋幸の目が笑っていた。まるで、はしゃぐ子供のように、秋幸は笑っていたのだ。
「ほら、色が変わっている。少しずつ、少しずつ、変わっている。放たれる赤が、野江の色に近づいている」
悠真は良く分からないまま溢れる赤色を見つめた。まるで衝動を抑えられない子供のように、秋幸が木造の雨戸に手をかけていた。そんな秋幸の笑顔と行動を、すっかり本来の無鉄砲さを失ってしまった悠真は、見つめることしかできなかった。本当なら、悠真が無鉄砲に動き、それを止めるのが秋幸の役目のはずなのに、無色を手にしたからなのか、今の悠真はかつての悠真らしさを失っている。
広大な海のように。
広い心で。
海を泳ぐ魚のように。
自由に。
誰も悠真を捕まえられない。
悠真は自分らしさを失っていた。無色の力が、今の悠真を生み出したのかもしれない。逆に、秋幸はとても生き生きとしているのだ。
悠真はかつての自分を取り戻そうと、秋幸と一緒に部屋の中を覗いた。