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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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紅城の赤い時間(12)

 暗い夜に、隠れるように散策をすると、わくわくとこみ上げる気持ちがある。


 悠真はもう、大人だと自負している。


 しかし、暗い夜の散策に興奮するということは、まだまだ子供なのかもしれない。暗い夜の散策は、大人の領域を侵犯しているような危機感があるから、興奮するのだ。その散策が紅城だとなると、悠真の興奮は高まるばかりだ。


 紅は、悠真がどこを歩き回ろうが気にしないだろうが、悠真自身が気にするのだ。紅城で働く術士や、術の使えない者まで皆が気にしてしまう。


「夜に出歩くと、気分が高揚するな。こうやって、無防備な浴衣姿で、知らない場所を歩く。そんなことではしゃぐなんて、年甲斐もないもんだね」


秋幸が悠真の前を歩きながら、声を弾ませて言った。まったく同じことを思っていた悠真は、何の返答もできない。しかし、暗い夜の散策に興奮することが悠真も秋幸も同じだと知ると嬉しい気持ちがした。


 秋幸と同じで嬉しい。そう思うと、自らが秋幸に依存しているということが分かる。悠真は秋幸に頼り切っているのだ。秋幸の奥深さに頼りがいを感じてしまうのだ。


 大きな赤が迫っていた。それは見えずとも感じている。大きさのある赤はとても強く悠真を包み込もうとしている。そこは、紅城の外れ。悠真たちの部屋からかなり歩いたところにあった。別棟から本棟を抜けて、よく分からない場所を抜けて、そしてここにたどり着いた。ここまで来ると、どうやって部屋に戻れるのか悠真には分からない。秋幸には分かるはずだと、悠真は信じているから不安を覚えることがなかった。


 迫りくる大きさを持つ赤が、柴が近くにいるということを教えてくれた。


 秋幸が迷うことなく足を進めるから、悠真はその後を追いかけるだけだ。紅城では、本棟とは別にいくつもの建物がある。その建物は大概が外廊下で繋がっているが、たどり着いたところは違った。


 その建物は特殊な色で満ちていた。


 色が十分に見えずとも、感じることが出来る。


 そこに柴がいることが、その建物から色が溢れ出ていることが分かるのだ。悠真の目にも感じるほどに強い色だ。この色の存在は、秋幸だけでなく、一色を見ることが出来る者の全てが感じているはずだ。外廊下で繋がっていない建物は、紅城の中でも特別な場所だと証明しているようであった。


「悠真、行こう」


秋幸が悪戯めいた笑みを浮かべ、裸足のまま外廊下から玉砂利の上へと足を降ろした。溢れる大きな赤色は、間違いなく柴のもの。悠真は、夕刻の柴の荒れた色を思い出し、少し恐ろしくなったが、秋幸が行くと言うなら止まることは出来ない。


 何と言われても、悠真は負けず嫌いなのだ。


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