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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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紅城の赤い時間(9)


 下膳をして、悠真と秋幸は一緒に外廊下に座っていた。大浴場で風呂を借り、すでに時間を持て余していた。眠る時間であるため、布団の用意はしているが、一日の興奮の冷めやらぬ今、眠ることは出来ない。夏が近い時期の夜風は気持ち良く、一重の浴衣で悠真と秋幸は夜風にあたっていた。悠真の心の中には、秋幸の言葉が常にあった。

――紅は監視している。

悠真にとって、紅はいつでも強く美しい存在だった。鮮烈な赤色が紅の人柄を示しているのだ。その紅が秋幸を監視をするはずがない。否、秋幸の監視でなく、それは悠真の監視かもしれない。一度不安になると、逃れがたい不安に襲われる。それは、紅が悠真に対してどのような印象を抱いているのか。紅が悠真を嫌っているのではないか。紅が悠真を警戒しているのではないか。紅が悠真を邪魔者だと思っているのではないか。そんな不安が悠真を襲うのだ。

 柴が紅に対して秘密を抱えている。その状況の不安よりも、悠真は自分のことを心配しているのだ。秋幸が平然としているのに、悠真は落ち着いていられない。


「ねえ、秋幸」

悠真が呼ぶと、秋幸は悠真を見て首をかしげた。

「紅は秋幸を監視なんてしていないよ」

それは、悠真が秋幸にかけた言葉のようで、違った。悠真が自分自身に言いたい言葉だった。

「そうだね、悠真。俺もそう信じているよ。紅という人は計り知れない人だ。計り知れない人だからこそ、俺たちは紅を思う。あの人の近くにいたいと、あの人の真意を知りたいと。それが、色神としての資質なのかもしれないな。それが、紅の持つ鮮烈な赤色のもう一つの色なのかもしれないな」

秋幸は空を見上げ、悠真はそんな秋幸を見ていた。そして、秋幸の言葉に納得した。紅の鮮烈な赤色には人を惹きつける力がある。鮮烈で強いのに、温かい。

「俺もそう思うよ」

悠真は紅の鮮烈な赤色を思い出した。思い出して、そして何かが引っ掛かった。鮮烈な赤。その色を秋幸が知っている。何が引っ掛かるのか、悠真は分からなかった。何が引っ掛かるのかは分からないが、紅を信じる気持ちを皆が持っているなら、何よりも心強く思えるのだ。

「柴が何かをしている。悠真にも分かるだろ」

秋幸が空の向こうを指差した。悠真には何のことなのか分からなかった。

「ほら、柴の色が零れている。あの大きさは柴のものだ」

悠真は暗い空の向こうを見た。すると、秋幸の言うとおり、柴の大きさのある赤が溢れている。そこで悠真は己が何に引っ掛かっていたのか理解したのだ。

「秋幸は一色を見ているのか?」

秋幸は小さく笑った。

「黒の色神の襲撃の後ぐらいかな。襲撃された官府で暴走した紅を見ていた時から、見えるようになったんだ。内緒だ、悠真。誰にも言っていない」

悠真は秋幸が、そのことを秘密にしていることが理解できなかった。それ以上に、なぜ悠真に話したのか分からなかった。秋幸はすべてを見透かしたように口にした。

「悠真は珍しい色をしている。無力だ。悠真の一色を知ったから、紅が俺に悠真の護衛を命じたのだと思いたいんだよ」

秋幸の目がいつもと違った。一色を見ているからなのか、秋幸の持つ平凡さの先の奥深さがいつもより広がって見えた。一色を見つつも隠していたのは、秋幸に何かしらの考えがあったからに違いないのに、秋幸は悠真に話したのだ。

「隠していたんじゃないのか?」

悠真は秋幸に尋ねた。秋幸は物事を深く考える人だ。悠真の知らないところで物事を捕えている。だから疑問に思ったのだ。突然、口を開いた秋幸の行動に。


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