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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(17)

 柴が抱える秘密の大きさには、野江でさえ信じられず、戸惑った。紅であれば尚更だ。柴が先代の紅を支えた術士であるのならば、紅が先代と自らを比較することも想像するに容易い。死んだ者を超えることなど出来ないのに。


 野江は大きく息を吸い込んで、ゆっくりと口を開いた。紅の不安を全て吸い込みたかった。

「――悩んで動けなくなる、そんな弱いあたくしが言う言葉じゃないのかもしれないわ。でもね、あたくしは紅に完璧を求めたりしないわ。そっちの方が人間らしくて良いじゃないのかしら」


そして野江は思う。もしかすると、人間を支える存在は二つあるのかもしれない。一つは、ありのままの自分を受け入れてくれる人。そして、もう一つは何があろうと信じていようと思える人。

 野江は誰かに必要とされたい。受け入れてもらいたい。そして信じてもらいたい。同時に、誰かを思いたい。信じたい。紅が欲しい言葉と野江が欲しい言葉が同じならば、野江も紅も同じ不安の中にいるのかもしれない。

 野江は紅の近くにいる。けれども、本当の意味で紅に必要なのは野江でない。人のことならば、なんとでも思えるのに、と野江は思った。

「紅、いつでもいらっしゃい」

野江は紅の手を優しく握った。

「紅、あたくしはここにいるわ」

紅の声が低く響く。


「ありがとう。おかげで、私は明日も進むことが出来る」


紅は強い。その本当の心を、野江は知ることが出来ない。

 野江の手から紅の手が離れた。

「野江、ゆっくり休んでくれ」

紅が身を起こすのを野江は感じた。紅にいつまでも居てもらって構わなかった。けれども、彼女は色神。あっけらかんとして、ふざけているようで、豪快なようで、雑なようで、紅としての一線を知っている。弱さを見せようとしない。今日、野江が見たのは紅の心の氷山の一角。強がりな紅が見せた、ほんの少しの弱さ。


「いつでもいらっしゃいな」


野江は身を起こさなかった。目を閉じて、紅の姿を見なかった。正直な所、見ることが出来なかったのだ。

「野江はいつも温かい。私に姉はいないが、野江のような姉がいたら、きっと心強かったと今でも思う。――ありがとう」

目を閉じた野江の世界は黒で覆われている。なのに、野江の瞼の裏には鮮烈な赤が輝いていた。


――どうか、紅が悩むことがなきように。


野江はそう願った。


 柴

 佐久

 冬彦


 紅以上の人はいない。あれほど愛しい存在はいない。三人にも、三人の悩みや苦悩があるのだろう。紅は待っている。紅城で、強がって待っているのだから、野江は彼らを迎えに行かなくてはならない。


 弱い野江が守りたいと思う、誰よりも強い紅のために。柴への謝罪、弱さへの怒り、全ては紅のために。堂々巡りの苦悩も、それはそれで良いのかもしれない。少しは紅の役に立つのならば。


 宵は深まり、野江は再び眠りへと堕ちていった。


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