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一色  作者: 相原ミヤ
火の国と紅の石
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赤の敵(2)

敵の本大将とも呼べる官吏は紅の姿を探していた。もちろん、悠真は紅ではない。もし、官吏が紅の真の姿を知らなければ悠真は紅といて殺されるかもしれないし、敵が紅の真の姿を知っていれば悠真は偽者として殺されるかもしれない。結局のところ、人質となった悠真に残された道は「死」のみであった。そして願うことは、どうか義藤に無事であって欲しいということだ。

 官吏に紅は誰だ、と問われて千夏が悠真を押し付ける腕の力が強まった。

「千夏が連れています」

義藤を抱えていた春市が言った。

「誰だ、こいつは……こいつが紅だと?品位の欠片もない小猿が紅だと?お前ら兄弟はこいつが紅だと思ったのか?愚か者め!」

悠真は息を呑んだ。やはり、敵はかなりの高官だ。紅の姿を知っていて、悠真が偽者であることに気づいている。自分が偽者だと知られて息を呑んだ悠真であったが、息をを呑んだのは悠真だけでなかった。隠れ術士たちも息を呑んだのだろう。悠真の頭を押さえつけていた千夏の手の力が緩んだ。悠真は身体をよじって、相手の顔を見上げた。四人に命じた男は年配の高貴そうな男だ。ふくよかな身体は男が権力を持つ立場であることを示していた。そして、悠真は年配の官吏の一色を見た。不思議なことに、臆病者の色であった。

 臆病者の色は高圧的な年配官吏の見た目とそぐわない色であった。しかし、色は嘘をつかない。悠真は色を見た。

 年配の男は悠真の顔を見ると激昂し、春市の胸倉をつかんだ。

「愚か者め!誰が紅だと!」

男は春市の胸倉をつかんで投げ飛ばした。不思議なことに、春市は抵抗しなかった。義藤と対等に戦う隠れ術士だ。年配官吏を押さえつけることぐらい容易いはずだ。容易いはずなのに春市は少しの抵抗もしない。それは悠真を押さえつける千夏も同じで、冬彦を抱える秋幸も同じであった。何もしない一方、千夏は紅の石に手を伸ばしている。千夏が春市を助けたいと願っているのは事実で、己の怒りを押し殺しているのも事実であった。

「紅は小娘だ。お前ら、何をしに行ったんだ!」

官吏は倒れた春市を蹴った。何度も、何度も蹴っていたが、春市は抵抗しなかった。他の兄弟たちも春市を助けようとしなかった。十数回、官吏は春市を蹴り続け、彼自身の息が上がった頃、動きを止めた。

 官吏は倒れた義藤を見ると言った。

「赤い羽織か……それは、義藤だな。紅が真を置くとする朱護頭。調べたが、出生もはっきりしない者だ。どこの馬の骨とも分からぬ存在。そのような者に赤を与える紅の愚かさが片腹痛いわ。して、なぜ殺さない?すでに義藤は不要な存在だ。殺して、首を紅に届けてやれ」

官吏は言った。義藤は以前隠れ術士であった。戸籍を持たず、山に隠されて育った。もちろん、その出生は秘密に包まれている。戸籍を遠次や惣次が用意したところで、出生への疑問は権力者なら気づくだろう。赤の仲間たちは、そのことに対して何も言わない。もちろん紅も同様だ。赤の仲間たちは義藤の生まれではなく、義藤自身の人となりを見ているのだ。だから何も気にしていない。義藤が紅を守ろうとする気持ちは本物で、義藤の優しさは本物だから。官吏の男は違う。義藤の生まれだけを見ているのだ。

(義藤のこと、何も知らないくせに)

悠真はそう思った。義藤は良い奴だ。今なら断言できる。義藤の優しさの強さも知っているから。

 春市は身体を起こし、言った。春市の口は切れ、赤い血が流れていた。

「義藤が身体を張って守ったのが、この子供です。義藤は紅を守る。だから、これが紅だと。それに、義藤は優れた男です。生まれは定かではないかもしれませんが、実力は本物です。ここで殺すには惜しいかと。義藤は赤い羽織を着ている、紅が信頼している男ですから。朱護頭という、実力だけで手にした地位は本物です」

地に頭をなすりつけ、春市は義藤の命乞いをしているようだった。春市は義藤の敵なのに、義藤の命乞いをする。信じられない行為だ。官吏は春市たちを見下ろして言った。

「なるほど、確かに義藤は紅が信頼する男だ。万一、こちらのことが紅に感づかれたとき、役立つかもしれない。それで、こちらの足取りはつかまれていないだろうな」

男は春市に問うた。

「はい。万事ご心配なく」

春市は男に返答し、そして言った。

「一つ、申し上げたいことがあります。義藤との戦いで冬彦が負傷しました。どうか、冬彦に休みを与えてください」

男は言った。

「愛情深い義兄弟だな。覚えておけ、次に失態を犯すようならば、奴らより先に兄弟の死に目を見るかもしれないぞ」

春市をはじめとし、千夏、秋幸も深く頭を下げた。

「二人は牢に入れておけ」

男は四人に命じた。


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