表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
569/785

緋色の温もり(16)

 野江は紅の過去を知らない。紅は義藤と旧知の仲だが、どこで出会ったのか、紅の家族は誰なのか、何も知らないのだ。彼女は、色神となった途端人間としての一生を終えたのだから。

「紅、あたくしはね、堂々巡りの弱い存在よ。けれども、あなたと歩みたいと、あなたを守りたいという思いは偽りないわ。たった一人のかけがえのない存在。とても愛おしい存在。――みんな、紅を愛しく思っているのよ」

人から必要とされているのか不安を覚えているのは野江の方だ。ふとした時に、寂しさに襲われるのだ。心の隙間に忍び込む風におびえているのは紅だけでない。野江も同じだ。

「紅、お聞きなさい。女はね、強くなれるのよ。女は誰よりも強くなれるの。あたくしは

女の強さを信じているわ」

紅が再び野江にすり寄った。紅の手は野江の手を握り、片方の手は野江の腕をつかんでいる。

「野江、私と歩んでくれるのか?」

紅の問いは、まるで婚儀の誓いのようであった。同じかもしれない。紅に仕えるということは、紅と苦楽を共にするという誓いだ。

「あたくしは、あなたと一緒よ」

紅は小さく笑った。

「ならば、私も野江と一緒だ。野江、たとえ術が使えなくなろうと、たとえ刀が握れなくなろうと、私にとって野江は大切な存在だ。誰よりも包み込んで、甘えさせてくれる大切な存在。野江がどのような状況に陥ろうとも、私は野江を信じている」


――信じる


その言葉がとても重い。紅の言葉は続く。

「赤を受け取ってもらった時点で、私は仲間を信じていた。野江、義藤、都南、佐久、柴、遠爺、そして鶴蔵。なのに、私の心にも風は吹きこむ。誰よりも信じなくてはならないのに、疑ってしまう」

野江は何も言えなかった。昼間、紫の石を通じて、紅が野江に言葉を送ってきたときに、野江は察するべきであったのかもしれない。「信じている」と言葉で言うには容易い。けれども、現実に消えてしまった佐久を信じ続けることは難しい。今までの信頼が大きければ、尚のことだ。野江は、紅のことを何も考えていなかったのだ。弱さを見せるのが、誰よりも苦手な紅の不安を察することが出来なかった。強くなければならない立場の紅の、隠れた弱さを野江は感じることが出来なかった。今も、紅は弱さを見せない。ぎりぎりのところで強さを保とうとしている。強い紅であろうとしている。紅の演技力は本物だ。感情を押し殺して、ここにいるのだから。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ