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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(14)

 野江は紅に語りかけた。

「紅、あなたは、あなたよ。先代は優れた人だったわ。それはあなたの前でも正直に言うわ。先代は心が広くて、受け入れる大きさがあったわ。それは、柴に近いものかもしれないわね。穏やかで雄大な力があったわ。まるで、芸術家のような人だったわ。風変りな一面もあったから。まるで、あたくしたちの兄のような、父のような人だったわ。あたくしが先代から貰った恩は、返しきれるものではないわ。あなたは赤の色神よ。あたくしが心から守りたいと思う存在よ。先代と比較しても何にもならないわ。――でもね、もし、あなたが赤の色神でなくて、普通の術士として目の前に現れたら。いえ、あなたが術士でなくて、たまたま都であたくしと会ったとしたら。あたくしは、あなたを守りたいと思うわ。あなたと親しくなりたいと、あなたと一緒にいたいと思うわ。あなたの持つ雰囲気が、熱が、強さが、弱さが、あたくしを惹きつけるのよ。あなたが赤の色神であっても、なくても、あたくしが寄せる思いは同じ。あなたのために戦いたいのは、本当の気持ちよ。先代と比べないで。あなたは、あなたなのだから」


紅の体が小さく震えている。抱きしめたいと思ったが、野江の痺れた右腕にそんな力はなかった。紅が布団の中へもぐった。野江の左腕にしがみついて、顔を寄せている。

「少し、ここにいなさいな」

野江は言った。ただ、紅の温もりを感じていた。


 野江は天井を見つめた。黒の色神の来訪による騒動の中で、紅は官府との歩み寄りの鍵と出会った。「源三」という男は、紅に力を貸してくれる官吏だ。先代が時期を見て、官府との歩み寄りをするために、源三とのつながりを作っていたと聞いた。先代が残した功績は大きい。

 野江は先代の顔を思い浮かべた。争いとは無縁なような、優しい顔をした人だ。どこか飄々としたような、どこか抜けたような、芯のあるような、子供だった野江ではとらえようのない人だった。先代が残した功績のおかげで、今がある。野江は何も言えない。先代のことを今の紅は知らない。知らない相手と比較することは出来ない。

「あなたは、あなたよ」

それはまるで、野江が自分自身に掛けた言葉のようであった。


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