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一色  作者: 相原ミヤ
火の国の夏に降る雪
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緋色の温もり(12)

頬をすり寄せる紅の温かさが着物を通して野江の肌に伝わる。その熱が愛おしい。

「野江は温かいな」

紅は野江に言った。そしてもう一度。

「野江は温かい」

温かいのは紅の方だと、野江は思った。熱いほどの熱がある。紅の少し低い声は、野江の中で広がりを持って響く。

「傷は痛まないか?」

紅の言葉で野江は痺れた右手に注意を向けた。痺れた右手は、指が微かに動く程度だ。アグノの言葉からしても、今の状況からしても、このままでは野江は刀を握れなくなるかもしれない。刀を握るということは、普通の生活を送る以上のことなのだから。

「心配なくてよ」

野江は答えた。これ以上、紅が心配を抱える必要はない。

「私は野江に無茶をさせた」

紅の言葉に野江は思わず小さな笑いを隠すことが出来なかった。

「あたくしよりも、紅は義藤に無茶をさせているのよ」

紅が義藤に無茶をさせるのは、義藤への大きな信頼によるものだ。旧知の仲という二人の関係には、遠慮がない。真面目な義藤だから、紅への礼節を保っているだけだ。だから、無茶が信頼の証ならば、何も気にする必要はない。野江は紅の術士なのだから。そんなことで、紅を悩ませたくない。紅は紅らしく、輝いていて欲しいのだ。

「何があったのかしら?」

野江は天井を見つめた。紅の顔を見るつもりはない。紅は顔を隠すように、野江にすり寄っているのだから、野江が天井を見つめるのは当然だ。紅は赤の色神。赤の色神なのだから。

「野江、私が柴にしたことは、許されるとおもうか?」

紅の唐突な質問に、野江は言葉を詰まらせた。

「紅、柴を追いつめたのは紅でなく、あたくしよ」

紅が気に病む必要など何もない。

「いや、私は柴を追いつめた。柴が去っていくはずなどないのに、私は嫉妬したんだ。まるで、柴の目に先代が映っているようでな。先代と張り合ったところで、何にもならないと言うのに」

なぜ、紅が先代のことを口にするのか野江は分からなかった。ただ、紅が愛おしく感じて野江は紅の手を握りしめた。

「紅と先代は別の人よ」

野江が強く紅の手を握りしめて、紅に顔を向けた。しかし、紅は野江の肩に額をつけているから、野江が紅の表情をうかがい知ることは出来ない。

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